コラム

100年前の歴史に学ぶ日本の未来

2022年01月12日(水)11時45分

1921年にワシントンで開かれた海軍軍縮会議 GEORGE RINHARTーCORBIS/GETTY IMAGES 

<政党・官僚・軍人が仕切る激動の時代へ移ってから1世紀を経て新たな漂流を始める兆しがある>

明るい年頭に何かいいことを書かなければと思っても、日本でも世界でも多くのことが未決のままのグレー一色。日本の国会では10万円の給付金をどのように配布するかとか、統計の記入基準がどうだとか「ムラ」の内部のことばかりが論戦の的でドラマがない。

今の世がつまらないので、歴史をひもとくことにする。100年前の日本を見ると、あるある。ドラマだらけだ。

1922年は大正11年で、くしくもその年は大隈重信、山県有朋という明治時代の最後の大物が相次いで亡くなった。山県の死去により長州閥は陸軍で力を失い、世は薩長支配から政党・官僚・軍人が仕切る体制へと移る。

第1次大戦の好況で、日本でも「中産階級」が裾野を広げて選挙権を獲得。「世論」が重要になる。ちまたには映画館、カフェ、デパートなどがあふれ、郊外の「文化住宅」に象徴される大衆文化・消費社会の世となった。

対外的にも大きな変化が起きる。国際連盟の常任理事国にのし上がって大国化した日本は太平洋を隔てるアメリカに警戒され、1922年にワシントン体制という、中国や南太平洋での抜け駆けを多国間で牽制し合う仕組み(九カ国条約、四カ国条約、ワシントン海軍軍縮条約の3点セット)に取り込まれた上、唯一の同盟相手であるイギリスから引き剝がされた。日英同盟は1923年に失効する。

日本は1927年には山東半島に出兵、1931年満州事変、1933年国際連盟脱退、そして1937年の日華事変へと突き進み、同年11月には九カ国条約体制から離脱する。この間、中国との融和を主張する有力者たちを次々に暗殺し、ただ一国で夜郎自大、さながら未成年による無免許の暴走運転を続けると、一旦はいいところまでいったが、結局は米英中ソ連に完膚なきまでにたたきのめされる。

翻って100年後の今、日本が新たな漂流を始める兆しがある。国力増長で慢心したからではなく、アメリカの腰が定まらなくなってきたからだ。

2001年9月の同時多発テロ事件でアメリカは超外向きになったけれど、オバマ政権以降は国外への関与を抑制するようになった。それはトランプ大統領の「アメリカ・ファースト」で過度にデフォルメされ、バイデン大統領になっても直らない。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

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