コラム

毛沢東の外交は味方よりも多くの敵を生み出す「唯我独尊」だった

2021年11月30日(火)17時00分

田中角栄元首相との会談(1972年)ではにこやかに挨拶したが ASW/RCS Andrew Wong Reuters Photographer

<毛思想をたたきこまれた習近平はその機微が分からずにアヘン戦争で失った権威の復活に突き進む【特集:文化大革命2.0より】>

筆者のような戦後世代にとって、中国は近くて遠い、どこか抽象的な存在だった。

と言っても、学生時代はマルクス主義運動全盛期。さる名物教授は革命の理想を追い求め、いろいろな革命、そして革命家を僕らに熱っぽく紹介したものだ。毛沢東は、彼にとってアイドルそのもの。農村から始めた革命、人民公社(強制的集団農場)、そして文化大革命。でも、われわれ学生はどこかしっくりこないものを感じていた。

それから50年を経て振り返れば、毛沢東の起こした革命はフランス革命やロシア革命、そして現代の「アラブの春」などとも共通し、結局のところ大衆をアジって味方に付けると武力も使って権力を奪取。その後に大衆は置いてきぼり、という基本パターンをなぞっただけだ。

中国の場合、置いてきぼりどころか毛沢東の「大躍進」政策の失敗で、何千万人もの大衆が餓死する憂き目を見た。

そしてフランスでもロシアでも、革命政権内部の意見の相違は血で血を洗う権力抗争につながる。中国の場合それは、毛沢東がライバルの劉少奇一派を倒すために始めた文化大革命だった。

毛沢東は少年少女たちを洗脳し、「紅衛兵」という暴力装置に仕立て上げた。彼になびかない者たちは軒並みつるし上げられリンチを受けた。家族同士、反革命分子だと密告し合うこともあったため、中国社会は仁義のないものとなった。

そんな文革末期の1976年、筆者は北京を訪れた。くすんだ色の人民服を着た無数の人たちが、薄汚れた自転車に乗って雲霞(うんか) のように広い通りを走っていく。広大な天安門広場の角には公衆トイレがあって、外には臭気が漂い、内部は形容不能の汚さだった。それは当時のソ連も似たようなもので、全てを公有し分配すると、皆が貧乏になってしまう。

皆が一様に貧乏なら人はけっこう幸せなものだが、社会主義の国でいけないのは経済を仕切るお偉方たちが特権を貪ることだ。71年に反毛沢東クーデターに失敗して飛行機で亡命を図った林彪元帥はモンゴルで墜落死するが、現場に林彪夫人のものと思われる赤いハイヒールが転がっていた。毛沢東の4番目の夫人、江青もその傲慢さとプチ贅沢ぶりで大衆に嫌われていた。

毛沢東時代は外交も唯我独尊で、アメリカだけでなく同じ共産主義のソ連や日本共産党とも対立し、1969年にはソ連と国境で戦争を起こした。途上国を仲間だと称しつつ、東南アジアなどでは反政府のマルクス主義勢力を支援して影響力を拡大しようとした。

その結果、インドネシアでは1965年に数十万人もの中国系住民が虐殺された。毛沢東の外交は、味方よりも敵を増やしたのだ。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

「中東情勢を注視」の表現追加、景気は緩やかな回復維

ビジネス

アングル:4月の日本株は波乱含み、「持たざるリスク

ビジネス

ユーロ圏消費者のインフレ期待低下、戦争前の調査 エ

ビジネス

電気・ガス料金、中東情勢で直ちに上昇することない=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:BTS再始動
特集:BTS再始動
2026年3月31日号(3/24発売)

3年9カ月の空白を経て完全体でカムバック。世界が注目する「BTS2.0」の幕開け

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 2
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終回に世界中から批判殺到【ネタバレ注意】
  • 3
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊張緩和の兆しか
  • 4
    「俺たちはただの人間だ」――BTSが新アルバム『ARIRAN…
  • 5
    まずサイバー軍が防空網をたたく
  • 6
    親の遺産はもう当てにできない? ベビーブーム世代…
  • 7
    意外と「プリンス枠」が空いていて...山崎育三郎が「…
  • 8
    デンマーク王妃「帰郷」に沸騰...豪州訪問で浮かび上…
  • 9
    「予想よりも酷い...」ドラマ版『ハリー・ポッター』…
  • 10
    実は「ミュージカルはポリティカル」?...社会の闇を…
  • 1
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公開...母としての素顔に反響
  • 2
    【銘柄】「三菱商事」の株価に高まる期待...ホルムズ海峡封鎖と資源価格高騰が業績を押し上げ
  • 3
    「マツダ・日産・スバル」が大ピンチ?...オーストラリアの「NVES規制」をトヨタが切り抜けられた理由
  • 4
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 5
    レストラン店内で配膳ロボットが「制御不能」に...店…
  • 6
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 7
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 8
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 9
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 10
    イランは空爆により核・ミサイル製造能力を「喪失」…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story