コラム

トランプ「対中カード」外交で捨て駒にされる台湾

2019年02月05日(火)17時30分

日本は中台対立をなだめる方向で動くべき Pichi Chuang-REUTERS

<再統一を迫る中国と武器供与で対抗するアメリカ――住民が米中対立の犠牲にならないために日本ができること>

台湾というと、日本もアメリカも「対中カード」の1つぐらいに考えがちだ。だが、ここには約2400万人が住み、GDPも約6000億ドルと、スウェーデンを上回る経済規模だ。

スマホの半導体チップの大半を握る米半導体大手クアルコムの生産を請け負うのは台湾の大企業、台湾積体電路製造。16年に日本のシャープを買収したのは鴻海精密工業だ。OEM(相手先ブランド名による生産)から出発したエイサーは世界的なパソコンメーカーとなった。

92年、中国が外資を優遇する政策を打ち出すと、台湾と香港の企業がなだれ込んだ。今では台湾企業は対岸の中国・福建省を皮切りに深圳、重慶、成都などに工場を展開。鴻海は子会社の富士康(フォックスコン)の名で、中国各地の工場で数十万人もの労働者を雇い、米アップルの製品を組み立てている。

台湾はグローバルなモノづくりチェーンのハブであり、しかも選挙で政権が交代する自由民主主義社会だ。台湾が国家かどうかの議論を尻目に、住民は台湾人というアイデンティティーと、高度に整備された行政機構を持っている。

外省人も「台湾人」意識

この台湾を使って、トランプ米大統領は中国とのけんかをしようとしている。アメリカは79年、中国と外交関係を樹立したときに、中国の要求で「一つの中国」原則を認め、台湾と断交した。日本も72年に同じことをしたが、米議会はほぼ同時に台湾関係法を制定。台湾有事における防衛を約束した。それでもアメリカは中国を刺激するのを恐れて、政府同士の直接交流や兵器売却を極力抑えてきた。

トランプはそのタブーを平気で破る。大統領就任の直前、16年12月に蔡英文(ツァイ・インウェン)総統からの電話をあえて受け、緊密な関係を維持することを確認した。中国との関係で、台湾をカードとして使う姿勢を明確にしたのだ。

これまで親中派に抑えられてきたアメリカの親台湾勢力は勢いづき、政府高官の交流制限撤廃、米海軍艦艇の台湾寄港再開、潜水艦建造への支援・参入と次々にタブーを破壊していく。昨年6月、アメリカ代表部である米国在台協会が台北で新庁舎の落成式を行った。これは在北京の米大使館と同じ規模に造られている。

中国の習近平(シー・チンピン)国家主席は21年の中国共産党結党100周年までに台湾を再統一するというもくろみがあるとみられている。そこにけんか外交を身上とするトランプが割り込んできて、事態はエスカレートしている。

昨年7月には米海軍駆逐艦が2隻、11年ぶりに台湾海峡を通航し、9月には台湾へのF6戦闘機などの部品供与を決めた。これに対して習は今年1月2日、台湾問題で演説。平和的統一への構えを示しつつも、武力使用の選択肢は捨てないと述べた。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

カナダ首相、米関税に対抗措置講じると表明 3日にも

ビジネス

米、中国からの小包関税免除廃止 トランプ氏が大統領

ワールド

トランプ氏支持率2期目で最低の43%、関税や情報管

ワールド

日本の相互関税24%、トランプ氏コメに言及 安倍元
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
メールアドレス

ご登録は会員規約に同意するものと見なします。

人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story