コラム

日本人が知らないアイルランドの「呪われた」チーム

2024年07月09日(火)18時00分

問題は、メイヨーがこの全国選手権の決勝戦で想像を絶する連敗を喫しているということ。なんと73年間にわたり11回連続で決勝戦負けなのだ。これを数学の問題に置き換えると、2つの結果が同じ確率で起こり得る場合、コインを投げて11回連続で裏になる確率は、5000分の1以下になる。

もちろん、スポーツ競技はコイントスではない。メイヨーの対戦相手が特に強くて、みんなが賭けたがるようなチームだったこともあった。でも、メイヨーが勝ちそうな時だってあった。

僕はゲーリックフットボールの専門家ではないし、メイヨーが決勝に進むたびに毎回ルールをおさらいしなければならないくらいの知識しかないが、それでもメイヨーが痛々しい負け方をして「悲嘆に暮れた」ことが何度かあった。

2016年には、ただでさえ稀なオウンゴールを、1試合で2回も決めてしまった。その試合は引き分けたが、続く再試合で、これさえ決めれば同点に追いついて延長戦に入るという土壇場でのゴールを外してしまい、敗退した。

アイルランドには32の州があり、メイヨーは決勝に進出し続けているのだから、メイヨーが弱いから負けているわけではないということは分かる。

そして当然、「呪い」の説も付いて回る。メイヨーは1951年に優勝したことがあるのだが、言い伝えによると、帰りのバスで選手たちは勝利に浮かれ騒ぎ、途中で葬列に遭遇したのに止まらず、死者と会葬者への礼を失した、というのだ。葬儀を取り仕切っていた司祭は彼らを呪ったとされている。「あのチームのメンバーが生きている限り、メイヨーを二度と優勝させたまわぬよう!」

チーム最後の生存者が亡くなって

おかしなことに、メイヨーの不運な連敗は1989年になってから始まった。決勝で負けるのを繰り返すようになるのは、(呪いから)40年近くもたってからなのだ。1989年以降になって、何度も決勝戦負けを繰り返すうちに、人々もこれは奇妙だと思うようになり、呪いの説が広まっていった。

そしてもちろん何年もの間、1951年の時の選手の健康状態には並々ならぬ関心が寄せられていた。チーム最後の生存者であるパディー・プレンダーガストは、メイヨーが2021年の決勝で敗れた数週間後に95歳で亡くなった。

だから、理論的には呪いは解けたはず。でも人々は、70年以上ぶりのメイヨー優勝を、いまだ待ち続けているところだ。

ニューズウィーク日本版 ガザの叫びを聞け
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年12月2日号(11月26日発売)は「ガザの叫びを聞け」特集。「天井なき監獄」を生きる若者たちがつづった10年の記録[PLUS]強硬中国のトリセツ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

新興国中銀が金購入拡大、G7による凍結資産活用の動

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ

ワールド

中国万科をS&Pが格下げ、元建て社債は過去最安値に

ワールド

鳥インフルのパンデミック、コロナ禍より深刻な可能性
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story