コラム

日本では不要な「警察を呼ぶ限界点の見極め」が必要なイギリス

2023年06月08日(木)14時20分
イングランドの警察

イングランドでは通報を迷う機会があまりに多く、多忙な警察の手を煩わせるのがためらわれる POOL NEW-REUTERS

<「これは通報しなければ」というタイミングは、日本では明らかなのにイングランドでは一筋縄ではいかない>

イングランドと日本には「明らかな」違いがある。でもどちらの国でも暮らしたことがある僕は──どちらにも精通していると自任している──細かくて予測不能な違いにとても興味を引かれる。

僕は時々、「今のこの状況に出くわしたら日本人ならどう思うだろう」と、ついつい考えてしまうことがある(例えば、知らない人が近づいてきて、電車で娘に会いに行くためにあと3ポンド足りないんです、と訴えた場合。日本人は、彼が作り話をしているだけの物乞いであって、目標の3ポンドを達成した後だって次から次へと通行人に近寄っては同じ話を繰り返していると、理解できるだろうか)。

そして日本にいるときには、「イギリスからの訪日客はこれを見たらびっくりするだろうな」と、ついつい考えることがある(一例を挙げれば、日本人がどちらかというと「低俗な」ユーモア好きで、男同士だとかなり下品になりがち、とか)。

昨日僕は、イングランドでは必要だが日本にいるときは磨く必要のない技術は、「警察を呼ぶタイミング」を見極める目だということに気付いた。日本では一度たりともこの技術が必要とされなかったから、つまりはいつ警察を呼べばいいかは明白なのだと思う──犯罪を目撃した時、だ。

でもイングランドでは、怪しいと思うたびに通報していたのでは、ただでさえ忙しい警察に負担をかけてしまうことになるだろう。僕はこれまでに警察を呼んだことがおそらく8~9回はあり、さらには本気で通報を考えたが結局やめた、ということも10回くらいある。

必死に「通報の根拠」を説明してしまう

そのうち1回はかなり奇妙だった。地下アパートの格子窓に挟まっている男を見た時だ。

その男は身動きが取れず、足はぶらりと垂れ下がり、尻は格子にはまり込んで、必死に引き抜こうとしていた。でも彼は、通りかかる人もけっこういたのに、全然助けを呼ぼうとしていない。だから僕は通報することにした。アパートに盗みに入ろうとしたが失敗して、人目を避けて脱出しようとしているのだろうと判断したのだ。

最悪、この推測が間違っていたとしても、格子にはまり込んでしまって恥ずかしさのあまり助けを呼べないでいる無実の男を、警察が助ければいいだけの話だ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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