コラム

7年前にソーラーパネル設置を断念した僕の後悔

2021年09月14日(火)14時45分

イギリスの電気料金はこの1年ほどで劇的に上昇した(英南部フロームの建物に設置されたソーラーパネル) Toby Melville-REUTERS

<イギリス政府が太っ腹な補助金を出していた7年前に、損得を綿密に勘定してソーラーパネルを諦めたが、低金利と電気代高騰とコロナ禍のいま思う「やっときゃ良かった」>

僕のように「数字遊び」的なものが好きな人なら、今回の記事は説明過剰に聞こえるかもしれない。でもあまり数学好きじゃない人にとっては、分かりにくい話かもしれない。今回記す話は、政府がいかに下手なやり方で矛盾だらけの政策を取ることがあるかのお手本みたいな例だ。

7年前、僕はわが家の屋根にソーラーパネルを導入しようかと検討した。あの時やっておくべきだったのではないかと、その後も折に触れて試算を見直してみた。一見したところ、当時はソーラーパネル設置は名案のように見えた。かなり太っ腹な政府補助金が出たからだ。それに僕はイングランドでも有数の日照量が多い地域に住んでいるし、わが家には南に面した広めの屋根もあり、お得な発電量が期待できそうだった。

信頼のある業者に見積もりを取ってもらい、設置コストの約7000ポンド(約106万円)のうち最大12%を還付金で取り戻せると言われた。そのうえ、再生可能エネルギーを生み出すことで環境の役にも立てるというわけだ。

わが家が発電所の1つになれる

それは「まともな」試算だったが、いくつか僕には当てはまらない条件に基づいていた。細かいところでいろいろと問題があったのだ。まず、ソーラーパネルでは複利効果(利息が利息を生んで膨らんでいく効果)は望めなかったし、パネルは減価償却資産でもある。僕は25年間は税還付を受けられるだろうが、そこで補助金は終わる。ソーラーパネルの効率性はだんだん下がっていくし、ある地点になれば故障したり修理コストに見合わない状態になったりするだろう。そうなればパネルは無意味、無価値になるだけでなく、結局は撤去や処分に費用をかけなければならなくなるかもしれない。それでもソーラーパネルは良い投資だろうが、魔法のような12%の税還付と、銀行預金で積み上がる金利4%(7年前当時の金利だ)の差を考えると、最初に考えたほどソーラーパネルの利益が大きいとは思えなくなってきた。

さらに、その試算は僕が「平均的な」電気使用者であると仮定して、発電した電気の大部分を自分で使う場合を想定していた。ところが、僕は一人暮らしで、特に冬には何カ月も家を空けたりするから、これは当てはまりそうにない。だから毎年約150ポンドもの利益は、どうやら実現しそうになかった。

他にもうんざりしたのは、政府の一部門が、このソーラーパネルへの投資を採算が合わないようなものに設定したばかりだったということ。エネルギー当局は「消費者の混乱を呼ぶ」恐れがあるからという理由で、「定額料金なし」の電気料金契約を禁止した。そんなに混乱を呼ぶ話ではない。単位あたりの電気により高い料金を払っても、その代わりにより低い基本料を払うだけで済む。だから定額料金は電気使用量が低い人に向いている。特にソーラーパネルでの発電量が多く、それ故にほとんど電気を買う必要がないという人だ。この政策のせいで、年間約50ポンドの節約ができるとの見込みが消え去った。政府の各政策が相反している例だ(「消費者保護」対「環境保護」で利害が対立してしまっている)。

僕が本当に困惑したのは、僕がソーラーパネルを導入していれば、実質的に大量の電気を送電網に実質タダで提供してやれただろうに、という点だ。補助金のうちの1つは「電力外部供給税」で、「発電したが自分で使わない電気」に対する支払いになる。そうした電気は送電網に送られ、誰か他の人に使われる。わが家が、全国無数にある小さな発電所の1つになれるのだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:全米で広がる反マスク行動 「#テスラたた

ワールド

トルコ中銀が2.5%利下げ、インフレ鈍化で 先行き

ビジネス

トランプ氏、ビットコイン戦略備蓄へ大統領令に署名

ビジネス

米ウォルマート、中国サプライヤーに値下げ要求 米関
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story