コラム

LED派の僕が光熱費上昇でほくそ笑む理由

2019年02月06日(水)10時40分

LED電球は通常の電球にくらべて消費電力が5分の1程度で済む REUTERS

<もう何年も前からLED電球の省エネ効果に目をつけて親戚じゅうに勧めてきた僕にとっては、ブレグジット間近でエネルギー価格が上昇する現状もかえってうれしい?>

なぜか僕は、経済的に不合理な話を聞くのが好きだ。たとえばレストランで絶対に食べきれない量を注文している人が、今日は全品3割引だから「お得」だぞ、なんて言っているのを聞くと、すごくおかしくなってしまう。その一方で、ビールが半額なのと、「1杯注文するともう1杯タダ」の経済学的な違いが分かっていない人には、イラついてしまったりする。

やたらと現実的で退屈な人間の僕は、ある年に、「今年の親戚へのクリスマスプレゼントや誕生日プレゼントは、発光ダイオード(LED)電球にしよう」と決めたことがある。特にハロゲン電球を使っている親戚には、ダウンライト(天井埋め込み型のライト)のLED電球を贈ることにした。消費電力が5分の1程度で済むからだ。

当時、LED電球はまだ少し高かったけれど、それでも電気代が浮くことを考えれば、通常の使い方をした場合、9カ月程度で元が取れるはずだった。もちろん僕の場合はプレゼントであげているのだから、親戚は初日からもうお得なわけだ。それはウィン・ウィン・ウィンな状況だった。僕は大切な人たちに役立つプレゼントができるし、彼らはすぐに生活費を節約できるし、環境にもとても優しい。おまけにLED電球は何年ももつから、面倒なときに限って何度も取り換える羽目になるのを避けられる(「取り付けたら、忘れてよし」が、LED電球のキャッチフレーズだ)。

ただ、一つ問題だったのは、僕の親戚はそれまで使っていた白熱電球が切れるまで、僕がプレゼントしたLED電球を使おうとしなかったことだ。彼らの生まれながらに染みついた習慣は、まず今あるものを「使い切ろう」だったから、僕は彼らに、待っているその毎日がカネの無駄になる(そして環境にも良くない)と根気よく説得しなければならなかった。このLED電球は、取り付けて使ってさえいれば、今後20年も毎週小銭をためてくれる魔法の電球なんだよ、と。

節約の度合いは大きくなる

何年も前のそんなエピソードを思い出したのは、今ではLED電球の値段が大幅に下がって、誰にでも勧めやすくなったからだ。それに、僕の「先見の明」を自慢したい気持ちもある。僕はこのテクノロジーのすごさに早くから気付き(早過ぎたという見方もできるが)、電球1個に約4ポンドかけていたのだ。今ならだいたい1ポンド。でも僕はどのみち、日頃から節電を心掛け、電力会社も慎重に選んできたから、これまでにLED電球のおかげで膨大な電気代を節約できたとは言えないかもしれない。

でも最近は、英政府のエネルギー政策や、迫り来るブレグジット(イギリスのEU離脱)、さらには原油高などが重なって、電気代が急上昇している。(例外的な)わが家の場合、1年前より44%も高くなった。ということは、僕のLED電球が節約する金額はますます増えている。僕の勝利だ!

ただ、光熱費の法外な上昇を喜ぶのは、経済学的に合理的なことではないのだけれど。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガのご登録を!
気になる北朝鮮問題の動向から英国ロイヤルファミリーの話題まで、世界の動きを
ウイークデーの朝にお届けします。
ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story