コラム

ご近所でも見られる移民大挙の現実

2015年08月03日(月)16時55分

■彼らがイギリスにとどまるわけ

 最近、英政府は最低賃金を著しく引き上げる政策を発表した(「生活賃金」と呼ばれだした)。だから今後は、イギリスでの低賃金労働は外国人労働者にとっていっそう魅力的なものになるだろう。

 東欧の人々の多くは、5年かそこら一生懸命働き、故郷に家を建てられるまとまったお金を稼いで帰ろうと考えてイギリスに渡って来るのだろうが、結局はイギリスにそのまま定住する道を選ぶ。それはまるで彼らの多くが、祖国で「リッチに暮らす」よりもイギリスで「つつましく暮らす」ことを選んでいるかのようだ。

 これはイギリス社会の恩恵のせいもあるだろう。1つには、教育がある。イギリスの学校は良質だ。僕のお隣の2人の女の子たちも、引っ越して来てすぐに地元の学校に通い始めた(そしてすでに両親より上手に英語が話せるようになっている)。それから、医療サービスがある。国民保健サービス(NHS)はたびたび危機状態に陥るものの、全体としてはうまく機能しているし、自由に利用できる。隣人の中国人は健康状態が悪いが、必要とあれば救急車が10分で来てくれるのは心強いだろう。近所のギリシャ人女性が、今のギリシャにいるよりイギリスで年金生活のほうがいい暮らしができているのは言うまでもない。

 ましてや発展途上国の「第三世界」に比べたら、イギリスの利点はより明らかだ。イギリスには宗教の自由があるし、比較的安全で社会はきちんと機能している。雇用や起業の機会があるし、不法移民にだって雇用のチャンスがある。同胞の労働者を雇ってくれるような大規模な闇市場もあるからだ。これは、同胞を「援助」すると同時に利益も挙げられるというシステムだ。

 ここのところ、命懸けで地中海を渡りヨーロッパを目指す難民のニュースが、繰り返し伝えられている。フランスの港町カレーの問題も深刻化している。イギリス側に渡ろうと決死の覚悟でトラックに飛び乗る難民が後を絶たないのだ。祖国の困難から逃れることだけが彼らの目的でないのは明らかだ。彼らは大きなリスクを冒してまでも、他でもないイギリスにたどり着こうとする――フランスや、そのほかの先進ヨーロッパ諸国ではなく。彼らを阻止するのはコストが掛かるし、果てしない作業になるだろう。イギリスの人々は驚いている。

 僕もその一人だ。でも以前からもう既に驚いていた僕の場合は、テレビをつけて大挙してイギリスに渡る難民のニュースを見るまでもなかったというわけだ。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

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