コラム

今どきの大学生が背負う借金地獄

2015年03月31日(火)11時31分

■結局高卒と同様の仕事に

 名門大学にはそれでも優秀な頭脳が集まったが、三流大学は従来の2倍、3倍、4倍の学生を取るようになった。大教室に学生が押し込まれ、教員と1対1のコミュニケーションは減る一方。大学の学位の価値自体が低下し続けている。

 膨大な人数の、明らかに平均的な若者たちが、すぐにでも収入と職歴が手に入る就職という道へは進まずに、あと3年間たいしたリターンも望めない学生生活を送ることを奨励される。言うまでもなく、大卒者を5倍にしたところで大卒向けの仕事が5倍に増えるわけではない(不景気ならなおさらだ)。

 多くの大卒者は21歳でキャリアをスタートすることになる。多額の借金を背負った彼らが就く仕事は、これまでなら借金を抱えていない18歳の高卒者が就いていたのと同じような職種だ。

 大学はノルマとなり、通過儀礼の1つになった。多くの若者は「行くものだから」大学に行く。大学に進学しないことは、教育を十分に受けていないに等しい。

 友人たちも行くことだし、大学生活を楽しめるから、という理由で若者たちは進学する。借金は1つの懸念材料だけど、簡単に理解できる問題でもない。結局、大学に進学する全員が、皆と同じ道で安心感を得るために借金を選ぶ。それは大学に行くための「必要経費」なのだ。

 彼らは良い仕事について、借金分の元を取ろうと望んでいる。政府は大卒者の生涯賃金は高いから、大学教育は価値があると彼らを安心させている。

 問題は、専門学科や名門大学の卒業生によって、その生涯賃金が大幅に押し上げられていることだ。医学部や理工系学部の卒業生はすぐに専門職に就き、長期にわたってもうかる仕事に従事する。金融業界は名門大学の学生を採用し、それ以外の大学でもトップクラスの学生はまともな職に就く。でも本当のところ、彼ら優秀な学生は、大学進学率が大幅に拡大する前の時代に、大学に通えていたのと同じタイプの人々だ。

「ボーンマス大学社会学部」や「ポーツマス大学メディア学部」の卒業生が、何万ポンドもの借金の元を取れるほど高給の仕事に就くのは、かなり望み薄だろう。

プロフィール

コリン・ジョイス

フリージャーナリスト。1970年、イギリス生まれ。92年に来日し、神戸と東京で暮らす。ニューズウィーク日本版記者、英デイリー・テレグラフ紙東京支局長を経て、フリーに。日本、ニューヨークでの滞在を経て2010年、16年ぶりに故郷イングランドに帰国。フリーランスのジャーナリストとしてイングランドのエセックスを拠点に活動する。ビールとサッカーをこよなく愛す。著書に『「ニッポン社会」入門――英国人記者の抱腹レポート』(NHK生活人新書)、『新「ニッポン社会」入門--英国人、日本で再び発見する』(三賢社)、『マインド・ザ・ギャップ! 日本とイギリスの〈すきま〉』(NHK出版新書)、『なぜオックスフォードが世界一の大学なのか』(三賢社)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

貿易分断で世界成長抑制とインフレ高進の恐れ=シュナ

ビジネス

テスラの中国生産車、3月販売は前年比11.5%減 

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story