コラム

極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(前編)

2017年04月12日(水)18時15分

例えば米大統領の一般教書演説などでは頻繁に「God Bless America(神のご加護を)」とのフレーズが出てきます。こちらはいわば宗教を精神的支えとした民主主義を象徴しているのに対してフランスは元来、反民主主義的で君主制に戻したいと考えていたカトリックやローマ教会などの宗教の影響力と対立してきたという歴史的背景があります。宗教のバックボーンに基づかない、理性による民主主義を掲げていると言って差障りないでしょう。

信仰には揺るぎない強さがありますが、それに比べると理性による民主主義は時に自らを疑い、揺らぐこともあるはずで、それがそのときどきフランスの歴史に影響を及ぼすのかもしれません。

フランスはご承知の通り先進国の中でも出生率が高い国であり、その意味では将来を楽観視しているとも言えますが、一方で落ちていくばかりとの指摘は国内からもあるとのこと。失業率は10%、EUの緊縮政策の中で景気は芳しくない状況です。

(フランス国立統計経済研究所(INSEE)は2017年の実質GDP成長率を2016年の1.2%から小幅ながら減速の前年比1.0%予測を発表。ユーロ圏経済の持ち直しで輸出は伸びる一方、内需は民間最終消費支出、民間設備投資ともに鈍化。英国のEU離脱問題、米国トランプ次期政権の政策運営などの外的要因の他、独仏の2017年の国政選挙などで政治不安が広がれば、景気の下押し要因へ。〔日本貿易振興機構(ジェトロ):フランス経済動向〕)

仏大統領選は二回投票制ですが、その第一回投票が4月23日に、第二回投票が5月7日にいよいよ迫ってきました。第一回目で絶対過半数を取ればそれで新大統領が決定ですが、そうでなかった場合には第一回目の投票で1位と2位となった候補者が第二回目で決戦投票をするシステムです。つまり、有権者は第一回目で意中の候補を選ぶことになりますが、第二回目は当選して欲しくない候補を落とす作業をすることになります。

【参考記事】ドミニク・モイジが読み解くフランス大統領選「怒り」「怖れ」「ノスタルジー」3つのキーワード

仏大統領の任期は5年、2期まで。現職の与党・社会党のオランド大統領は再選を目指せたのですが、昨年12月に立候補の断念を表明しました。現職大統領が立候補するのは仏政治文化の伝統であったわけですが、それが立候補できないというのですから、これだけを取り上げても今回の仏大統領選には何か異変が起こっていると言えるかもしれません。

支持率の低迷と言えばまだ聞こえはいいですが、実際には「総スカン」だそうで、その遠因の一つには、日本の民進党とオーバーラップする状況でもありますが、選挙公約になかった付加価値税(日本の消費税に相当)の引き上げを実施したことなどがあげられます。

そんな中、有力候補とされるのは

■フランソワ・フィヨン
(63歳、元首相、共和党、文化的にはカトリック保守、経済政策は新自由主義)

■エマニュエル・マクロン
(39歳、オランド政権の経済相、中道無所属、新自由主義グローバリスト)

■ジャン=リュック・メランション
(65歳、「屈しないフランス」、アンチ新自由主義、国家主権重視)

■マリーヌ・ルペン
(48歳、「国民戦線」、ナショナリスト、反EU、国家主権重視)

■ブノワ・アモン
(49歳、社会党、穏健左派、親EU、ベーシック・インカム導入に賛成)

の5人です。

後編に続く

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story