極右政党を右派ポピュリズムへと転換させたルペンの本気度(前編)
例えば米大統領の一般教書演説などでは頻繁に「God Bless America(神のご加護を)」とのフレーズが出てきます。こちらはいわば宗教を精神的支えとした民主主義を象徴しているのに対してフランスは元来、反民主主義的で君主制に戻したいと考えていたカトリックやローマ教会などの宗教の影響力と対立してきたという歴史的背景があります。宗教のバックボーンに基づかない、理性による民主主義を掲げていると言って差障りないでしょう。
信仰には揺るぎない強さがありますが、それに比べると理性による民主主義は時に自らを疑い、揺らぐこともあるはずで、それがそのときどきフランスの歴史に影響を及ぼすのかもしれません。
フランスはご承知の通り先進国の中でも出生率が高い国であり、その意味では将来を楽観視しているとも言えますが、一方で落ちていくばかりとの指摘は国内からもあるとのこと。失業率は10%、EUの緊縮政策の中で景気は芳しくない状況です。
(フランス国立統計経済研究所(INSEE)は2017年の実質GDP成長率を2016年の1.2%から小幅ながら減速の前年比1.0%予測を発表。ユーロ圏経済の持ち直しで輸出は伸びる一方、内需は民間最終消費支出、民間設備投資ともに鈍化。英国のEU離脱問題、米国トランプ次期政権の政策運営などの外的要因の他、独仏の2017年の国政選挙などで政治不安が広がれば、景気の下押し要因へ。〔日本貿易振興機構(ジェトロ):フランス経済動向〕)
仏大統領選は二回投票制ですが、その第一回投票が4月23日に、第二回投票が5月7日にいよいよ迫ってきました。第一回目で絶対過半数を取ればそれで新大統領が決定ですが、そうでなかった場合には第一回目の投票で1位と2位となった候補者が第二回目で決戦投票をするシステムです。つまり、有権者は第一回目で意中の候補を選ぶことになりますが、第二回目は当選して欲しくない候補を落とす作業をすることになります。
【参考記事】ドミニク・モイジが読み解くフランス大統領選「怒り」「怖れ」「ノスタルジー」3つのキーワード
仏大統領の任期は5年、2期まで。現職の与党・社会党のオランド大統領は再選を目指せたのですが、昨年12月に立候補の断念を表明しました。現職大統領が立候補するのは仏政治文化の伝統であったわけですが、それが立候補できないというのですから、これだけを取り上げても今回の仏大統領選には何か異変が起こっていると言えるかもしれません。
支持率の低迷と言えばまだ聞こえはいいですが、実際には「総スカン」だそうで、その遠因の一つには、日本の民進党とオーバーラップする状況でもありますが、選挙公約になかった付加価値税(日本の消費税に相当)の引き上げを実施したことなどがあげられます。
そんな中、有力候補とされるのは
■フランソワ・フィヨン
(63歳、元首相、共和党、文化的にはカトリック保守、経済政策は新自由主義)
■エマニュエル・マクロン
(39歳、オランド政権の経済相、中道無所属、新自由主義グローバリスト)
■ジャン=リュック・メランション
(65歳、「屈しないフランス」、アンチ新自由主義、国家主権重視)
■マリーヌ・ルペン
(48歳、「国民戦線」、ナショナリスト、反EU、国家主権重視)
■ブノワ・アモン
(49歳、社会党、穏健左派、親EU、ベーシック・インカム導入に賛成)
の5人です。
<後編に続く>
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