コラム

障がいがある子の新米お母さんたちへ、今伝えたいこと(前編)

2016年08月01日(月)16時50分

 今回犯行に及んだ人物は「障害者は不幸を作ることしかできません」と手紙にしたため、「障害者はいなくなればいい」と以前から言ってはばからなかったそうです。これは社会に余裕がある・ない以前の問題で、我々の社会の大前提として、こんな発想がまかり通っては絶対にならないのです。そして、唖然としたのが、マジョリティではないにせよ、犯行に対して「一理ある」などとする、二度も三度も障がいを抱える本人や家族を傷付ける意見があること。

(A)障がいがあるからといって他人から命を奪われたり、傷つけられたりすることはあってはならないことと(B)福祉施設の労働環境の劣悪さ、その環境や待遇改善が必要であることとは全く次元の違う話。(A)と(B)、レイヤーの違う話を混同して議論を進めるのは甚だおかしい、こんな至極当然のことを障がい者やその家族への理解が不足していた昭和ならともかく、平成が20年以上経った世でもあらためて声高にかつ毅然と言わなければならないものなのでしょうか。

 福祉施設で働く皆さん、現場の最前線でケアや介護に携わっておられる皆さんには本当に頭が下がります。娘のこと、パーキンソンと認知症を患って長らく介護のお世話になった母の存在もあり、私自身が母として娘として背負うべき大変な重荷を分かち合い背負っていただいた深い感謝しかありません。介護を筆頭に社会福祉の現場が大変過酷であり、(中間業者に中抜きされるような制度面も含め)現場で働く皆さんの待遇を改善する必要があるのは間違いありません。ただ(A)と(B)のレイヤーを分けて議論を進めなければ、労働環境などの本質的な処遇改善には至りません。仮に私が育児や介護に疲れたと娘や母に手をあげたところで娘の障がいや母の認知症が改善することがないように、現場の不満をケアが必要とされる人たちに直接的に向けても問題の本質的な解決にはならないのです。

 冗長的で申し訳ないですが社会福祉の現場についてもう一言だけ。老人医療・介護の専門医をしている身内の見解も踏まえた上で、介護など社会福祉に携わる方々には徹底的な適性が求められ、社会福祉はプロフェッショナルな業務です。安い給料で誰でもいいから雇用して成り立つ仕事ではないわけで、だからこそ、プロとしての社会的立場をきちんと確立し、相当の対価をしっかりお支払する必要がある。最も過酷であると同時に最も頼りにされる、人間の尊厳に深く関わる現場の方々が社会的地位が弱く曖昧なまま低賃金で甘んじてよいなんてことは全くありません。

 表層的な議論と興味本位の報道では誰も救われません。本質的な実のある議論を進めることについて、雇用といった社会システムやその社会制度の不備などの問題についてはあなたより少し先輩である我々が引き受けます。それとは別次元として、新米お母さん、あなたの子どもが生まれてこなければよかったとあなたが思うことも、いなくなればいいと思われているのではないかと心を痛める必要も全くありません。あなたの子どもが不幸だけの存在であるわけがありません。そんな風に悲観的になる必要はないと考えてくれる人たちは、家族や友人・知人はもちろん、行政、コミュニティ、世界中に大勢いて、私がそうしてもらっているように、惜しみない支援の手を差し伸べてくれるのもまた事実です。その点はどうか安心して欲しいと思います。助けが必要な時には、躊躇せずに周囲に声を発して下さい。

後編に続く

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

ロシア・ウクライナ復活祭停戦、発効数時間で双方が違

ワールド

米イラン協議決裂、核・ホルムズ海峡で溝埋まらず 停

ワールド

中国、台湾向け観光規制緩和など新措置 野党党首訪中

ビジネス

円高につながる金融政策、「一つの選択肢」=赤沢経産
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    健康を守るはずのサプリが癌細胞を助ける? 思いがけない副作用に研究者が警鐘
  • 2
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦によって中国が「最大の勝者」となる理由
  • 3
    新しいアメリカンドリームは「国外移住」...5人に1人が海外を希望する時代
  • 4
    中国が恐れる「経済ドミノ」
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 9
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 10
    革命国家イラン、世襲への転落が招く「静かな崩壊」
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 7
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 8
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 9
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story