コラム

日本の巨大年金基金はこうしてカモられる

2016年01月22日(金)18時40分

 短期的に投機的な動きがあったとしても実体が強固であれば、株価は適正価格に戻ってくるはず。ポイントはこれまでの日経平均株価が日本の実体経済を反映した水準であったのか、ということになりますが、実のところはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)などの公的基金を使って、半ば力づくで押し上げてきた相場です。

 GPIFが扱う基金は約135兆円と巨額で、その資金の一部が買いで動けば、リアルなお金が市場に入ってくるわけですから、一時的に株価は上昇します。しかし、実体を鑑みないまま購入すれば、市場価格を歪めることになります。そして、実体経済を置き去りのままの歪んだ株価であれば、そのしっぺ返しは(それがこのステージになるのか、もっと先になるのかは別として、最終的には)大変手痛いものになるのは間違いありません。であるからこそ、実情からかけ離れてもなお株価さえ上がれば良しとするような、人為的な操作は慎むべきなのです。

 これまでのところ株や円安でひと儲けしたという人もいるでしょう。GPIFの基金も株価が上昇すれば収益が増え、下落すれば損失が出ます。しかし、これは実現益や実現損ではなく、評価損益に過ぎません。相場取引というのは買ったものは売る、売ったものは買い戻す、この売り買い2つの作業をして初めて完結したとことになります。買っただけの株価が上昇する中、評価した際に収益が出たところで、それは取引の途中のことです。実現益として懐に入れない限り、評価益などというものは所詮、砂上の楼閣に過ぎません。

 逆に、評価損だけで運用のまずさを指摘するのも適当ではありません。実現益や実現損として確定しないうちは、相場動向次第で損した得したの水かけ論に終始するだけです。

 問題は評価損益の部分ではなく、そもそも国民の大切な資産である年金基金を市場リスクに漫然と晒してもいいものなのか?という根源的な部分です。そちらの本質的な議論が当初から余りに不足していると言わざるをえません。

 各国それぞれ年金基金がありますが、例えば米国の代表的な社会保障制度に老齢・遺族・障害年金(OASDI)があります。社会保障年金(Social Security)と呼ばれ、米連邦政府の社会保障庁(Social Security Administration、略称SSA)が運営をしています。日本以上にこの米国の公的年金は積立金を保有していて、日本円に換算すると約320兆円にもなります。しかも、OASDIの場合は全額を米国債での運用と法律で定めており、現在は米国債の中でも、特別債での運用のみとなっています。米国債に限定する理由として、巨額の運用が市場に与える影響や安全性を重視する様子がSSAのQ&Aの内容からもうかがえます。


Q:どのように(OASDIの運用している)信託基金は投資されているのですか?

A:法律により、信託基金の歳入については、日々、元金と利子の両方が、連邦政府によって保証されている有価証券に投資されなければなりません。信託基金が保有するすべての有価証券は、米国財務省證券の「特別債」となります。このような有価証券は信託資金だけが購入可能とされています。

 過去には、一般でも手に入る、市場取引されている米国債を信託基金が保持していたこともありましたが、市場取引される有価証券とは異なり、特別債はいつでも額面価格で換金することができます。取引される有価証券は、自由市場の影響下にあり満期になる前に売った場合に、損失を被ることも、あるいは利益を得ることもあります。特別債への投資は、現金で資産を保持するのと同様の、事態の変化に対する適応性を信託基金が保持することにつながるのです。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ米大統領、自身のSNSに投稿された人種差別

ビジネス

アングル:インド「高級水」市場が急成長、富裕層にブ

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、リスク資産反発受け 円は衆

ワールド

トランプ氏、インドへの25%追加関税撤廃 ロ産石油
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予防のために、絶対にしてはいけないこととは?
  • 2
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入った「最強ライバル」の名前
  • 3
    韓国ダークツーリズムが変わる 日本統治時代から「南山」、そして「ヘル・コリア」ツアーへ
  • 4
    韓国映画『しあわせな選択』 ニューズウィーク日本…
  • 5
    【台湾侵攻は実質不可能に】中国軍粛清で習近平体制…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 8
    日経平均5万4000円台でも東京ディズニー株は低迷...…
  • 9
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 10
    「こんなのアリ?」飛行機のファーストクラスで「巨…
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から脱却する道筋
  • 3
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 4
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 5
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 6
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 7
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 8
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 9
    エヌビディア「一強時代」がついに終焉?割って入っ…
  • 10
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流してい…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 7
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story