アベノミクスが目を背ける日本の「賃金格差」
話をILOの報告書に移しましょう。英語の原本の中でILOは、世界的に非正規雇用の拡大で賃金が抑制された結果として消費が抑制、総需要が落ち込み、投資も冷え込んだとし、非正規雇用を正規化すれば440兆円の経済効果が見込めると各国に安定雇用の推進を求めています。
A potentially key factor explaining the slow recent growth performance is a shortage in global aggregate demand. In particular, the growing disconnect between labour incomes and productivity may have affected private consumption and global demand, thereby also reducing private investment. A vicious circle may be at work, with lower demand affecting output and employment, thereby further depressing demand. Indeed, if employment declines or grows more slowly than under normal circumstances, the aggregate wage bill will be adversely impacted, in turn exerting a negative impact on household consumption and therefore on overall aggregate demand.
最近の経済成長パフォーマンスの低下を説明するのに重要な要因は、世界的な総需要不足だ。特に、労働収入と生産性の間の断絶が進んだことが、結果的に民間投資の削減につながり、個人消費や世界的な総需要に影響している可能性がある。悪循環が進行中の現状では、低需要が生産性および雇用に影響を与え、結果的に需要をさらに低迷させている。事実、通常の状況下よりも雇用が減退し生産性が緩慢となれば、賃金総額は悪影響を受け、それが次には家計消費に悪影響を及ぼし、その結果、全体的な総需要にもマイナスの影響を及ぼすことになる。
例えば日本の場合、労働生産性は2000年から2011年の間に16.4%上昇していたにも関わらず、この間の実質賃金の上昇率はわずか0.4%ですから、生産性に見合うだけの賃金上昇が無かった、報告書が指摘する「労働収入と生産性の間の断絶」が生じたため、消費が低迷、需要が減退したというわけです。
この断絶が発生した理由については同じくILOが発表した「世界賃金報告2014/15年版」を参照、ということなので、参照をすると、2007年と2013年を比較して実質賃金が低下しているのはギリシャ、アイルランド、イタリア、日本、スペイン、英国であり、その主な原因は、雇用形態の構造的な変化によるとの指摘があります。特に日本については、
In Japan, the decline is attributable in part to labour market reforms in the mid-1990s, when more industries were allowed to hire non-regular workers; the consequent influx of non-regular workers, who often earned less than regular workers, contributed to the stagnation of wages over time (Sommer, 2009; Agnese and Sala, 2011)
日本では、労働分配率の減少を起因する1つとして1990 年代半ばにより多くの産業で非正規の労働者を雇う許可がされた労働市場改革がある、すなわち、結果として多くの場合、正規の労働者よりも少ない賃金の非正規労働者が殺到、それが長期的な賃金の停滞をもたらした(Sommer、2009 年;Agnese and Sala、2011年)
としています。さらにここでSommer氏の文献を参照せよとのことです。当該文献であるIMFのワーキング・ペーパー「なぜ日本の賃金はこれほどまで低迷しているのか?」をみると、90年には雇用者全体の20%程度だった日本の非正規労働者が2007年には34%まで拡大(2014年は37.4%)、労働市場における二重構造が顕在化し、OECDのデータでは19の先進国中、非正規労働者の割合は第3位の多さとなっていることを指摘。欧州の中には日本よりもパートタイム比率が上昇した国があるわけですが、日本の抱える問題として、正規雇用者に対する労働者保護規制(EPL)はOECD平均と同程度に厳格であるのに対して、日本の正規雇用者のEPLと比較してもOECD平均の非正規雇用者のEPL と比較しても、日本の非正規雇用者へのEPLが相対的に甘いことをあげています。
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