コラム

驚愕のアメリカ漏洩事件!350件以上の最高機密文書が公開された理由とは?

2023年04月25日(火)10時10分

アメリカ国内で最高機密とされているJWICSなどの情報にアクセスできる人間の数は130万人と言われている...... Gorodenkoff-shutterstock

<アメリカでは統合参謀本部で配布しているブリーフィング資料やスライドなど、報じられているところでおよそ350件以上が流出し、現在までに報道されたのはその一部だ......>

過去の戦争でも内部文書の漏洩はあったが、今回はロシアとアメリカで漏洩があり、情報が新しかったり、量が多かったりとこれまでにはない特徴がある。日本では主としてアメリカの漏洩が報じられているが、ロシアでもさまざまな文章が漏洩している。アメリカの文書漏洩では漏洩した文書を改竄してネットにアップされた可能性が指摘されている。以前からロシアはハッキングで盗み出した文書の一部を改竄してから公開するという手法を用いていたが、今回はアメリカが自らの失態で起こした文書漏洩に乗じた形のようだ。

アメリカの漏洩は漏洩文書が最初にアップロードされたSNSの名称にちなんでディスコードリークと呼ばれているが、同様な漏洩がまたあったら今度はディスコードリークセカンドとでもよぶつもりなのだろうか?

アメリカの文書漏洩

漏洩事件そのものは今回のテーマではないので、簡単に概要のみをご紹介する。アメリカでは統合参謀本部で配布しているブリーフィング資料やスライド、CIAのオペレーションセンターからのアップデートの情報などが流出した。報じられているところでがおよそ350件以上が流出し、現在までに報道されたのはその一部だ。

資料は配布後、比較的すぐに容疑者が開設していたディスコードのサーバーThug Shaker Centralにアップされたため直近のウクライナやアメリカの関係機関の活動がわかるものとなっていた。

逮捕された容疑者はオーティス航空国家警備隊基地に本部を置く第102情報飛行隊のジャック・テシェイラ1等空兵(21歳)で、情報関係の業務を行っていた。アメリカ国防総省には「Joint Worldwide Intelligence Communications System(JWICS)」と呼ばれる軍事情報共有ネットがあり、最高機密がアップロードされている。容疑者はこのネットへのアクセス権限を持っていた。さほど高い地位でもなく、州兵である容疑者はなぜ国家最高機密へのアクセス権限を持っていたのだろう? 漏洩の背景には2つの問題があった。

・あらゆるものが「最高機密」扱いとなり、多数の職員にアクセス権限を付与せざるを得なくなっていた

ある資料を最高機密としたことで処罰されることはないが、最高機密扱いにしなかったことで漏洩などが起きた場合、責任が問われる。今回でも漏洩させた容疑者は罪に問われるが、最高機密扱いに指定した者は処罰されない。ならば、権限を持つ者はどんな文書でも最高機密扱いにしておいた方が安全だ。ただの「メリークリスマス」のメールを最高機密扱いで送信した者までいることは有名だ。

とりあえず最高機密扱いにされる資料が増えれば、それを読むべき者も増える。今回の容疑者のように比較的経験の浅い若者が最高機密にアクセスできるようになる。アメリカ国内で最高機密とされているJWICSなどの情報にアクセスできる人間の数は130万人と言われている。これはアメリカの機密保護の致命的な問題となっている。なお、最近のニューヨーク・タイムズの記事では300万人が機密情報にアクセスできるセキュリティクリアランスを有していると書かれているので100万人以上いるのは確かなようだ。

おそらく今回の報道を見て、「自分も同じことができる」と感じたアメリカ人は万の単位でいるはずだ。その中から次のジャック・テシェイラが出てくる可能性は低くない。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

金現物、4500ドル初めて突破 銀・プラチナも最高

ワールド

イスラエル、軍ラジオを来年閉鎖 言論の自由脅かすと

ワールド

再送-ベネズエラが原油を洋上保管、米圧力で輸出支障

ワールド

豪NSW州で銃規制・ 反テロ法強化、乱射事件受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者・野村泰紀に聞いた「ファンダメンタルなもの」への情熱
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これまでで最も希望が持てる」
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 6
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 7
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    なぜ人は「過去の失敗」ばかり覚えているのか?――老…
  • 10
    楽しい自撮り動画から一転...女性が「凶暴な大型動物…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story