コラム

民主主義の衰退が生むグレーゾーンビジネス

2023年04月07日(金)16時40分

民主主義国における非国家アクター

民主主義の国では政府と非国家アクターの双方にメリットのある関係は民主主義的価値感と相容れないために成立しない。しかし、SNSプラットフォーム企業や国家向けスパイウェア企業などは民主主義国にも存在する。表の1、2がそうだ。

ひとことで言うと、民主主義国では一方的に非国家アクターにメリットがある。民主主義国家においては法の枠内で企業は自由に活動し、利益を得ることができる。グーグルが中国に検閲機能つきサーチエンジンを提供したり、イスラエルに監視クラウドを提供するのも自由だ(非難はされるが)。

今の時代は民主主義と権威主義のボーダーラインがあいまいになっており、シームレスに移行することができる。実態は独裁であっても、自称民主主義の国はいくつも存在し、今後も増える見込みだ。世界全体で考えた時のビジネス規模においても非民主主義国も顧客にした方が市場は大きく、規制もゆるく、利益は大きい、倫理的な問題に目をつぶればだが。

一般的に人間の身体、心理、社会に深刻な影響を与える可能性のあるものにはなんらかの規制が必要と考えられている。SNSプラットフォームが提供しているサービスは利用者の精神に影響や行動に影響を与える可能性があることは以前から指摘され続けてきた。本来ならば統計的あるいは臨床的な検証を経て一定の条件のもとでサービスとして提供可能になるべきなのだが、現実には企業自身の判断で自由にサービスを提供し、内容を変更することができる。環境に関する規制や監視がなく、公害による被害が起きていた時代と同じことが起きている。

民主主義の理念に反しているが、法律で規制されているわけではない。単に法律や規制が現実に追いついていないだけなのだが、今日のように技術革新や新ビジネスが次々と行われている状況においては常に法律や規制から漏れる領域が存在し、莫大な利益を得られるチャンスが転がっている。さらにビッグテックはロビイスト活動も積極的に行っており、法律や規制の成立を遅らせ、実効性を下げようと努力している。SNSプラットフォームは法規制がないことを理由に人や社会に対するリスクを知りながらもビジネスを拡大しているグレーゾーンビジネスだ。

民主主義的価値感とは相容れないことが問題であるのは、非国家アクターもわかっているので、表向きは民主主義を標榜しているふりをする。以前ご紹介したグーグルの中国向けサーチエンジンとイスラエル向け監視クラウドは極秘プロジェクトとなっていた。その一方でファクトチェック団体への支援など民主主義的価値感を守るための活動にも取り組んで民主主義的価値感を尊重している姿勢をアピールしている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ガザ全域で通信遮断、イスラエル軍の地上作戦拡大の兆

ワールド

トランプ氏、プーチン氏に「失望」 英首相とウクライ

ワールド

インフレ対応で経済成長を意図的に抑制、景気後退は遠

ビジネス

FRB利下げ「良い第一歩」、幅広い合意= ハセット
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 8
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 9
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 10
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 10
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story