コラム

民主主義の衰退が生むグレーゾーンビジネス

2023年04月07日(金)16時40分

余談であるが、たとえば中国政府やロシアのワグネル(しないと思うが)の資金提供をファクトチェック団体が受け入れたら、その団体は「そういうもの」として認識され、発表内容は信憑性に欠けると思われるだろう。支援を受けたジャーナリストやメディアも同様だ。しかし、グーグルやフェイスブックなど欧米の非国家アクターからの支援を受けても、そうは思われない。さらに資金提供を受けた団体や個人の中には自らの信頼性を守るために資金提供元を擁護するようになるものもあるだろう。

また、グーグルなどはアドネットワークなどを通じて陰謀論者や白人至上主義者のグループに広告料金を支払っており、これが中国やロシアのデジタル影響工作と未秘のエコシステムを形成している。

中国やロシアはアメリカ社会の混乱を拡大するために陰謀論者や白人至上主義者のグループの発言を拡散し、増加したアクセスに対してグーグルなどアドテックが広告料金を支払う。陰謀論者や白人至上主義者のグループは得た資金で仲間のリクルーティングや武装化を進める。仲間は増え、活動が活発になると発言も増え、それらをさらに中国とロシアが拡散し......という拡大再生産のループだ。中国とロシアは発言を拡散するだけでアメリカ国内の危険分子を増加させ、資金提供することができ、グーグルなどのアドテックは売上を伸ばすことができるという未秘の協力関係に基づくエコシステムである。

実際、コロナ禍において陰謀論者や白人至上主義者のグループは反ワクチンなどの発言を行い、それを中国とロシアが拡散し、広告収入が増加したことがわかっている。

ichida20230407b.jpg

このようにして拡大した陰謀論者や白人至上主義者のグループはアメリカおよび世界にとっての脅威になりつつある。2021年1月6日のアメリカ連邦議事堂襲撃事件、ドイツのクーデター未遂事件、ブラジルの暴動が脅威が現実のものであることを示している。これらはアメリカのSNSプラットフォーム、アドテック、陰謀論者たちと中露の拡散が結びついた結果生まれた結果なのだ。

拡大するグレーゾーンビジネス

非国家アクターというグレーゾーンビジネス組織は中国やロシアなどの権威主義国においては政府と非国家アクター双方にメリットがあり、民主主義国では非国家アクターにとって大きなメリットがあるため、しばらくは拡大を続けるだろう。非国家アクターが行っているグレーゾーンビジネスはすでに我々の社会を広く侵食している。

バイデンは民主主義サミットを開催して、民主主義の再興を訴えたが、アメリカ自身が民主主義を衰退させる非国家アクターの巣窟になっている。さらにSNSプラットフォームやQAnonや白人至上主義といった危険な非国家アクターを世界各国に輸出している。この矛盾を克服できなければ民主主義の再興は絵に描いた餅でしかない。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国1月CPI、+0.2%に鈍化 PPI下落率縮小

ワールド

トランプ氏、石炭火力発電支援へ 国防総省に電力契約

ワールド

EU、CO2無償排出枠の見直し検討 炭素市場改革

ビジネス

パラマウント、WBD買収条件引き上げ 違約金など負
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 2
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...周囲を気にしない「迷惑行為」が撮影される
  • 3
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トランプには追い風
  • 4
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を…
  • 5
    崖が住居の目の前まで迫り、住宅が傾く...シチリア島…
  • 6
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 7
    変わる「JBIC」...2つの「欧州ファンド」で、日本の…
  • 8
    衆院選で吹き荒れた「サナエ旋風」を海外有識者たち…
  • 9
    【銘柄】「ソニーグループ」の株価が上がらない...業…
  • 10
    まさに「灯台下暗し」...九州大学の研究チームが「大…
  • 1
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた実験室」に...抗生物質の「不都合」な真実とは
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    がんの約4割は、日々の取り組みで「予防可能」...予…
  • 5
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 6
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」と「フリース」に移った日
  • 4
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 5
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 6
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 7
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    【クイズ】韓国を抜いて1位に...世界で最も「出生率…
  • 10
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story