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ウクライナ侵攻から1年、世界の半分以上はウクライナを支持していない
フォーリンポリシー誌ではエマ・アッシュフォードが、2つのグループ(グローバルノースとサウス)をはっきりと分けて考えているとしたうえで、我々が見ているのはグローバルノースの努力と成功に焦点をあてたきわめて勝利主義的な物語だと述べている。
これまでグローバルノースは「民主主義」を標榜し、経済制裁などを関係国に強要し、強い絆を誇示してきた。グローバルサウスは多様であり、グローバルノースのような強い絆はなかった。しかし、最近インドのようにことさらグローバルサウスの結集を強調する国も出て来た。グローバルノース主流派とグローバルサウスの対立は悪化し、グローバルサウスの多くの国はロシアよりになってきている。ウクライナ侵攻当初よりもグローバルサウスはグローバルサウスであることを意識し、グローバルノースとの溝は深まっている。
南北問題、アドテック、SNS、移民兵器、陰謀論、過激派、すべてがデジタル影響工作のツール
今回目を通したレポートからわかるデジタル影響工作上の問題はさらにある。
グーグルを始めとするネット企業がロシアよりの情報発信を行っているサイトに広告を配信し、資金を提供していた。侵攻後、こうしたサイトは倍増している。
ロシアのデジタル影響工作によるナラティブの拡散をSNSプラットフォームは抑制しようと試みた。フェイスブックにおいては劇的な効果があったものの、ツイッターでは効果がないどころか増加しており、SNSプラットフォームの対応による差異が明確になった。また、大手プラットフォームによる規制を行っても他のプラットフォームに逃げるだけで、逃げた結果かえってアクセスが増加したという事例も報告されている。そもそも大手SNSプラットフォームでの規制に効果がないことは、2021年1月6日のアメリカ連邦議事堂襲撃事件で明らかになっている。SNSプラットフォームの規制が効果的でないことが今回も露呈した結果となった(というよりも本気でやる気がない?)。
表中の「移民兵器」とは、武装化した移民という意味ではなく、なんらかの方法で相手国に移民を送り込むと脅しをかけて、相手国を譲歩させたり、協力や支援を取り付けたりすることである。1951年の難民条約ができて以来、少なくとも81回移民兵器が使用されており、半数以上は成功し、4分の3では目的を部分的に達成したという。制裁措置や、部分的な戦争、強制的な外交の成功率が40%程度であることを考えると、きわめて高い成功率だ。しかも、移民兵器の人数や相手国の能力とは関係ない。通常、移民兵器になりうるのは、欧米以外の国からの移民だけである。なぜなら移民兵器は相手国の偏見につけこんだものだからだ。移民兵器の規模から考えて、受け入れることに大きな問題はなく、相手政府が気にするのは国内の感情的な反対である。そのことは逆説的に大量のウクライナの人々を各国が受け入れていることからもわかる。
これまでの移民兵器とは異なり、ウクライナ移民は受け入れられることで相手国の負担を増加させ、社会を不安定にする効果を生み出し、デジタル影響工作が効果を発揮する土壌を作る。また、同時にこれまで移民や難民の受入を拒まれ続けてきたグローバルサウスの人々にグローバルノースへの不信感を募らせ、ロシア発のナラティブに共感しやすい土壌を作った。
アメリカ連邦議事堂襲撃事件、ドイツのクーデター未遂事件、ブラジルの暴動と陰謀論などの過激派の事件が相次いでいる。以前の記事に書いたようにこれらに関係した人々とロシアには関係がある。ロシアと中国はコロナ禍でQAnonなどの陰謀論、白人至上主義、反ワクチン論者などの主張を拡散し、結びついた。その結果、ロシアのウクライナ侵攻と同時に世界各地の陰謀論者、白人至上主義、反ワクチン論者が一斉に反ウクライナ、親ロシアの主張を発信したという背景がある。
アメリカ連邦議事堂襲撃事件に対するロシアのデジタル影響工作の効果を評価するのは難しいが、ロシアの拡散によってこれらの集団が前述のアドテックから収入を増加させることができ、活動を維持、拡大できたことや、ウクライナ侵攻後に親ロシアの発信を行ったことから一定の効果があったと考えてよいだろう。このへんの事情は拙著『ウクライナ侵攻と情報戦』にくわしく書いた。
以上のように、ウクライナ侵攻から1年経ち、専門機関の多くは自分たちの見てきた世界が限定されていたものであったことに気がつき、その反省を踏まえて新しいアプローチを模索しはじめている。デジタル影響工作はフェイクニュースなど狭い領域の話に思われがちだが、世界の歪みを凝縮した広範な世界なのだ。
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