コラム

グーグルなどのネットサービスは利用者に支払うべき報酬を踏み倒している!?

2021年09月10日(金)18時06分

最大年間20万円の受けとるべき報酬がある?

いくらくらいの報酬を受けとることができるのだろうか? 実際の数値を見るまで、筆者はなんとなく「巨大な収益をあげていると言っても、莫大な数の利用者がいるのだからひとりあたりにしたら年間1円にも満たないだろう」と考えていた。しかし、そうではなかった。

先の例のiPhoneの場合、世界で10億台普及しているそうなので(CNBC)、グーグルがアップルに支払っている1兆円を10億で割ると一人当たり約千円となる。この時点で筆者の考えていた年間1円未満の千倍以上の数字になったが、これはあくまでiPhoneの利用に限定した話だ。もう少し一般的な数字を見てみよう。

ネット企業がユーザー一人から得ている収益(ARPU)は、フェイスブックでおよそ年間3千円と言われてきた。増加傾向にあり、フェイスブックの直近四半期でもっとも高い北米のARPUは5千円以上になっており、単純に4倍すると年間2万円になる。

もちろん収益をそのまま利用者に渡せるはずはないが、上限として考えられる。売上の中からどれだけ報酬に回せるかは企業努力次第だが、グーグルが自社の取り分を充分確保したうえで、アップルに1兆円払えることを考えると数円ということはないだろう。

仮にひとつのサービス利用で年間2万円の報酬をもらえるとした場合、グーグル、ツイッター、LINE、インスタグラム、TikTokなど合わせて10のネットサービスを使っていると、年間20万円をもらえることになる。20万円という数字は極論だが、少なくとも年間1円未満という筆者の予想よりははるかに多いことは確かのようだ(ありていに言えば筆者が物を知らなかっただけだが)。さらに、ARPUは増加傾向にあるので(Vested)報酬は増えてゆく可能性が高く、利用しているネットサービスが増えれば収入も増える。IoTなどの普及で嫌でも利用するネットサービスは増加するはずだ。

この数字は利用者一人当たりの平均なので、利用頻度や内容によってより多くもらえる人も出てくるだろう。たとえばYouTubeはグーグルサービスの中ではもっとも小規模な収益だが、日本国内でも億を稼ぐYouTuberを生み出している。YouTuberはコンテンツを作るから別格という人もいるかもしれないが、SNSへの投稿もコンテンツであり、そもそもグーグルが販売する商品の原料である以上、対価が発生して当然と言える。今までその対価は無料のサービス利用という「常識」でごまかされていたが、とっくにそういう時代ではなくなっていたのだ。利用するだけでなにも還元されなかった利用者が、過去の購買履歴や決済実績から高く評価されて、VIP利用者として高いレートで報酬をもらえることもあり得るだろう。

なお、フェイスブックはARPUで業界をリードしていると言われているおり、その中でも最大のARPUを占めている北米の数値を元にしている。あくまでこの数字は上限中の上限である。

中国系サービスによるデジタル中国元での支払いもあり得る?

私が取り上げるくらいなので、こうした考え方は広まりつつある。グーグルやフェイスブックが利用者への報酬を行わないなら、デジタル広告大手になったアマゾンや、中国系ネットサービスが先んじて開始する可能性もある。アマゾンなら自社サービスの決済に使用できるポイントで支払うこともできる。中国系ネットサービスならもうすぐ登場するデジタル中国元での支払いもあり得るだろう。

中国なら社会信用システムと連動して、より包括的なアプローチも取れる。中国の外交官の投稿をいいね!やシェアすると、デジタル中国元をもらえるかもしれない。HUAWEIのスマホを使うだけで報酬がもらえるようになる可能性もある。多くの企業が参入し、利用者への報酬金額で競い合うようになれば、さらに報酬は増える。

ただし、ネットサービスにおける広告とは、「未来の行動」の商品化である。これまでの広告とは異なり、ターゲットである利用者に最適化されているので、表示される広告は選択肢を狭まり、嗜好に合ったつい買ってしまいやすいものばかりになる。フェイスブックが陰謀論に引っかかりやすい人をターゲットに、「携帯電話の電磁波から頭を守る帽子」の広告を表示していたという事例もある。ある意味、誘導であり、極論すると自由意思の制約とも言える。

これまでの労働が「現在の自由」を渡すことだとしたら、ネットサービス利用という労働は「未来の自由」あるいは「選択の自由」を渡すことなのだ。ただし、すでに農奴となっている我々にはネットサービスを選ぶことはできても、全てのネットサービスの利用をやめて農奴でなくなることはできないだろう。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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