コラム

いまだ結論の出ない米中コロナ起源説対決──中国に利用された日本のテレビニュース報道

2021年07月01日(木)17時50分

米中で行われたコロナ起源説合戦は多くの人々に影響を与えた...... REUTERS/Henry Nicholls

<コロナの起源に関して公開された情報、特に米中のコロナ起源説合戦を整理する。この中で日本のメディアが重要な役割を果たしていた...... >

今回はコロナの起源に関して公開された情報を整理してご紹介したい。2020年に関しては主として、デジタルフォレンジックサーチラボ(DFRLab)とAssociated Pressの共同調査「WEAPONIZED」を中心に整理し、その後については各種資料から確認した。詳細は年表に付したリストを参照いただきたい。見にくい方は拙ブログに一覧を掲載したのでそちらをご参照いただきたい。

コロナの起源について各種資料を収集、確認した。多くの専門家の意見の共通した意見が、「確定的なことを言えるだけの情報はなく、今後も見つかるかどうかはわからない。今の段階ではあらゆる可能性を排除せず、調査と検証を行うべきである」だったことを最初に申し上げておきたい。研究所漏洩説の急先鋒とみなされているAlina Chanにしても、NBCに、自然発生説を否定しているわけでなく、すべての可能性をテーブルにのせておくべきだと語っている

また、ウイルスに関するネット上の情報がほとんど中国の関与に集中していたのはアメリカだけだった。前述の共同調査によると、アメリカには報道の自由という強い伝統があるため、さまざまな情報源から信頼性の高い公衆衛生情報が提供され、根拠のない誤った主張をチェックすることができる一方で、大規模でオープンな情報環境があるため、陰謀論者のようなアクターが根拠のない説を増幅させやすくなっていると指摘している。

また、前回の「コロナ禍によって拡大した、デマ・陰謀論コンテンツ市場」でご紹介したようにグーグルなどが広告を通じてデマや陰謀論のサイトに多額の利益をもたらしていることも大きな要因だろう。

世界保健機関(WHO)は、早い段階で今回のパンデミックが情報面での危険性をはらんでおり、問題のある情報が急速に広まっていることを認識していた。2020年2月2日、WHOはコロナに関する報告書を発表し、「正確な情報と誤った情報が判別不能な形で氾濫し、必要なときに信頼できる情報源やガイドラインを見つけることが困難になっている」と指摘した。

合理的あるいは倫理的に考えるならば、国際協力を推進し、科学的知見を広めるべきだったが、世界をリードすべきアメリカ(トランプ政権および関係者)や中国が根拠のない非難合戦を繰り広げ、冷静な対話が困難になった。この非難合戦はアメリカにおいては国民に政府への不信感を広げ、保健当局が健全な政策を実施する邪魔にもなった。

コロナを利用したデマやフェイクニュース、ネット世論操作では、アメリカ、中国、ロシア、イランが目立っているが、本稿では特に米中のコロナ起源説合戦をご紹介したい。実はこの中で日本のメディアが重要な役割を果たしていた。

コロナ起源説の流れ 予想されるのは政治的、外交的な結論

これまでの主な流れを影響の大きかったものを中心に表にまとめると下表のようになる。オレンジは中国を未確認の事実を元に非難あるいは報道したもの、黄色はアメリカを未確認の事実を元にあるいは報道したものである。最近になるほど色がついていないのは根拠のないものの影響力が減ってきたためである。

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プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ウクライナ侵攻と情報戦』(扶桑社新書)など著作多数。X(旧ツイッター)

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