コラム

鎖国化する経済とサイバー安全保障 3大国に喰われる日本

2021年05月20日(木)17時30分

アメリカと中国以外の国はインターネットの各種プラットフォームを通じてデータを収集され利用される側にいる。SNSから農業、交通システムにまで広がったプラットフォームを2大国に独占させておくのは、他の国とってたとえ同盟国といえども看過できない脅威となる。

EUのようにアメリカの自由過ぎるネット利用に制限を加えるのは対抗策のひとつだ。インドは、データの民主化(データの持ち主である利用者本人と所属するコミュニティ=国家と収集したデータを全て共有する)を主張している。

自由で開かれていると思われがちなサイバー空間は、すでに国家による統制、管理の対象となりつつある。サイバー空間の閉鎖化は、自国内の技術と製品で行う必要があるため、前述の閉鎖経済化と密接に連動している。

中国市場を失った分の利益を同盟国で補填しようとするアメリカ

しかし、前述のForeign Affairsの記事には気になることも書かれていた。現在、3カ国は経済的に依存し合っている。中国という市場を失えばアメリカ企業は成長や技術革新に必要な利益をあげることができなくなる。同じことはアメリカ市場を失った場合の中国にも言える。インドもそうだ。

アメリカは同盟国であるヨーロッパ、アジアの豊かな国、北米から利益を得ようとし、中国とインドは豊かでないアジア、アフリカ、ラテンアメリカの市場から利益を得ようとするだろう。同盟国である日本はアメリカに利益を提供することを期待される。また中国やインドとの関係を良好に保つために、両国にも利益を提供することになりかねない。

これからのグローバリゼーションは、これまでとは異なる姿を取る。「自由で開かれた」社会であることを標榜しつつ、自国は閉鎖的になり、かつての帝国主義にも似たナショナリズムに基づいたものとなる。この動きは、「民主主義を標榜する独裁主義」国家が世界でもっとも多くなっていることと無縁ではない。

世界はあらゆる側面で権威主義化、独裁化しつつある。表向き民主主義や「自由で開かれた」ことを標榜しているために気づきにくいだけなのだ。10年後も表向きは民主主義を唱える国はまだ多いだろう。しかし、実際に民主主義である国がどこまで残っているかは疑問である。果たして日本はどのような統治体制の国家になっているのだろうか?

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story