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世界でもっとも多い統治形態は民主主義の理念を掲げる独裁国家だった
この手順だと選挙民主主義から選挙独裁主義への移行はシームレスに行われ、国民の多くはその変化に気づかないかもしれない。イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリが言ったように、「我々が住んでいるのは民主主義国家なのか、権威主義国家なのか? もし我々が1930年代のドイツやイタリアにいたならなんの疑問を持たずに答えられた。現代の権威主義は民主主義のように見せかける」(2021年2月4日、Munk Dialogue)なのだ。わかりやすい権威主義を世界に披露しているのは中国など少数に留まる。
日本という国を考えても、多くの人が民主主義国であると考え、前述の指標でもそうなっているものの、全体主義化が進んでいると声も聞こえている。境目は曖昧となっている。
2021年年初に寄稿した「民主主義の危機とはなにか?」は、EUの民主主義行動計画(European Democracy Action Plan)やスタンフォード大学フーヴァー研究所のラリー・ダイアモンドのレポートやForeign Policyなどさまざまなレポートに書かれている民主主義の危機について共通する要素を整理してまとめたものだ。要約すると、下記となる。
「主としてアメリカによって民主主義は理想的な制度と認識されるようになり、アメリカを中心とする各国が2000年代頭まで振興を続けた結果、世界の主流となった。しかし、その後アメリカは民主主義の振興から手を引き始める。これに前に述べたSNSの普及や中国の台頭、ポピュリストの台頭などが加わり、世界的に民主主義国の数やスコア(民主主義指標)は減少し、2006年以降民主主義の後退が始まった。資本主義が充分に発達し、金融資本主義へと移行し、民主主義に悪影響を与え始めたことも要因のひとつだ。コロナによってさらに後退は加速している」
この変化は今回公開されたV-Demのデータでも確認された。前掲の人口推移のグラフの選挙民主主義と選挙独裁主義をご覧いただくと、2000年代初頭まで選挙独裁主義が減少し、選挙民主主義が増加している。その後、選挙独裁主義が増加し、選挙民主主義が減少に転ずる。そして2010年代に入ると、再び傾向は逆転する。選挙民主主義の変化は新興国(旧ソ連邦含む)の民主化が進んだためであろう。
最近また傾向は逆転し、コロナをきっかけとして選挙民主主義は大幅に減り、選挙独裁主義は大幅に増加した。しかし、ヨーロッパを中心とした自由民主主義は2000年代から減少を始め、2010年代に入るとはっきり下がり始める。
国の数の推移を見ると、選挙民主主義と選挙独裁主義はどちらも大きな傾向としては増加を続けている。完全な独裁主義は2010年初頭まで減少を続けたが、その後増加している。一方、自由民主主義は増加していたが、2000年代半ばに横ばいになり、2010年代に入ると減少しはじめた。
ちなみにさきほどの2つの民主主義の指標で、アメリカは「瑕疵のある民主主義」、「自由民主主義」となっている。
民主主義の理念を持つ独裁国家=選挙独裁主義
選挙民主主義と選挙独裁主義の垣根は曖昧であり、それを利用して権威主義化は進む。この変化が容易に進むのは、民主主義には理念と実装(法、制度、運用体制など)に乖離があるためではないかと考えている。
民主主義の理念については、ほとんどの国で一致している。国民主権、言論の自由などの基本的人権、平等などだ。そして実装でも多くの国は似通っている。憲法があり、法律があり、行政組織がある。似ているのは、他の国が始めたものを自国用にアレンジしていることが多いためだろう。
しかし、民主主義の実装には論理的あるいは科学的根拠がないものがほとんどだ。たとえば代表者に権力を委託する間接民主制では選挙はもっとも重要な要素だが、投票方式や在任期間などについて継続的に科学的に分析、整理し、実際の制度にフィードバックしている国は私の知る限りない。以前も書いたが、現在ほとんどの国で行われている選挙には論理的、科学的な裏付けはなく、「文化的奇習の一種」(多数決を疑う――社会的選択理論とは何か、2015年4月22日、岩波書店)でしかない。
選挙や制度は学術分野としては社会的選択理論やメカニズムデザインと呼ばれる領域である。国内外に研究者も存在するのだが、実際の選挙にその知見が反映された例はわずかで先進諸国では皆無と言っていいだろう。意図的に理念と実装の間の溝を放置してきたかのようにすら見える。
理念と実装の間をつなぐものがないために民主主義を毀損する実装も簡単に許してしまう。たとえば選挙独裁主義の国家ではフェイクニュース対策の名目で言論の弾圧を行うことが常套手段になっている。法律は国会で審議されるが、それを運用する行政組織は国民が選挙で選んだ職員がいるわけではない。国民の代表者には任期があり、継続して執務を行い、知見を蓄えられるとは限らないという問題があるので多くの場合、行政の運用は国民の代表中心には行われなくなる傾向がある。
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