コラム

アメリカ大統領選に投入されていた秘密兵器 有権者監視アプリ、SMS大量送信、ワレット

2020年11月02日(月)18時00分

テキストメッセージは、選挙キャンペーンの重要なツールとなった......REUTERS/Shannon Stapleton

<アメリカ大統領選で行われている監視と誘導のツールは、パブリックからプライベートへとシフトしていた......>

アメリカ大統領選も大詰めとなった10月の終わりに、MIT Technology Review(2020年10月28日)、The New York Times(2020年10月28日)各誌に大統領選に投入された新兵器についての記事が掲載された。その新兵器とは、有権者監視アプリとテキストメッセージとワレットである。

icghida1002b.jpg

30億通のテキストメッセージを送信

まず、テキストメッセージについて説明したい。テキストメッセージとは携帯のSMSなど直接個人宛に届くメッセージで通常は1対1のものであるが、それを大量に一斉送信する。今回の選挙では主としてSMSが用いられた。この手法は以前の記事でもご紹介したように2018年の中間選挙において一部地区で使用されたものだ。前掲のMIT Technology Reviewによれば2016年にも一部で使用されていた。

The Conversation(2020年9月21日)は、今回の選挙で大量のテキストメッセージが用いられていることをレポートした。1日に12通届くことも珍しくないという。

今回の選挙では11月3日までにアメリカ国内の有権者は30億通の政治的なテキストメッセージを受信すると推定されている。アメリカの有権者数はメッセージよりもはるかに少ない2億3千4百万人強である。支持政党が確定していない地区(スイング・ステート)や重要な有権者グループに多くのテキストメッセージが送信されると見られている。

今回、大規模に使用されるようになった背景には、この4年間で個人向けにカスタマイズしたテキストを大量に送信するサービスが開発されたことと、選挙活動に関する法規制が通信技術に追いついていないことがあげられる。ほとんど規制のない状態で正体を隠し、キャンペーンを実行できるのだ。SMSは発信者がわかるが、電話しても応答はなく、電話番号は外注業者のもので、法規制がないため発注者を開示する義務はない。

1対1のメッセージは強い影響力と秘匿性を持つ

テキストメッセージの影響力を甘く見てはいけない。テキサス大学オースティン校のthe Center for Media Engagementのレポートによれば、親しみを感じさせ、高いレベルの影響力を持つ強力なツールだと指摘している。しかもテキストメッセージの開封率は70〜98%とメールや電話に比べ非常に高い。さらに法規制もまだなく監査も及ばないのだ。

おかげでフェイスブックやツイッターから閉め出されたフェイクニュースはテキストメッセージに移り、テキストメッセージはフェイクニュースの温床になりそうだ。たとえば夏に行われたフロリダの選挙では候補者が脱落したというフェイクニュースがテキストメッセージで拡散された。テキストメッセージに力を入れているのはトランプ陣営である。今年6月以降、トランプ陣営から発信されたメッセージはバイデンの約6倍となっている。

現在、GetThruHustleOpn SesameRumbleupconversoなどの企業が大量のテキストメッセージを送信できるサービスを提供している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:スイスの高級腕時計店も苦境、トランプ関税

ワールド

ルビオ氏「日米関係は非常に強固」、石破首相発言への

ワールド

エア・インディア墜落、燃料制御スイッチが「オフ」に

ワールド

アングル:シリア医療体制、制裁解除後も荒廃 150
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「裏庭」で叶えた両親、「圧巻の出来栄え」にSNSでは称賛の声
  • 2
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 3
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 4
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 5
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 6
    セーターから自動車まで「すべての業界」に影響? 日…
  • 7
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、…
  • 8
    『イカゲーム』の次はコレ...「デスゲーム」好き必見…
  • 9
    主人公の女性サムライをKōki,が熱演!ハリウッド映画…
  • 10
    日本人は本当に「無宗教」なのか?...「灯台下暗し」…
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 6
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 7
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story