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アメリカの顔認証システムによる市民監視体制は、もはや一線を超えた
一線を越えた顔認証システム
FBIとアメリカの警察は以前から顔認証システムを活用していた。ニューヨーク市警ではFacial Identification Section (FIS)がその任に当たっている。前掲の表のFACEはその代表例だ。その後、事態は大きく変化した。民間企業の台頭がめざましい。技術の発展もさることながら大きく変わったのはSNSの普及と顔認証システム提供企業のモラルかもしれない。
具体的にはネット上(主にSNS)にアップされている写真をAIの学習用データやデータベースとして扱い出した。倫理的な問題だけでなく、法律や利用規約に抵触しそうだが、法的にはクリーンなものもある。たとえばMegaPixelsで紹介されているデータベース(現在、七つ)がそうだ。
いずれも法律および利用規約上の問題はクリアしているのだが、そこに映っている本人たちが自分の動画が使われていることを理解しているかというとそうではないようだ。
MegaPixelsで紹介されているマイクロソフト社のMICROSOFT CELEBはすでに公開を停止しているが、公開時は10万人以上の個人の1,000万枚以上の画像が登録されていた。これらは学術研究用に無償で利用可能だったため、軍事関係の研究者や顔認証システムで知られる中国のSense Time社やMegvii社も利用していた(Financial Times、2019年6月6日)。
現在、アメリカに顔認証システムを提供している民間組織の主なものは次の表の通りである(あくまで代表的な一部の例)。今回は代表的な二つの組織を紹介したい。Clearview AI社とMitre Corporation(非営利団体)である。
27カ国、2,228の利用者を持つClearview AI社
業界大手のClearview AI社は、超えてはいけない一線を越えたように見える。今年1月、ニュースサイトやフェイスブック、インスタグラム、YouTubeなどのSNSから自動的に顔写真30億枚以上を収集してデータベース化していたことが暴露された(The New York Times、2020年1月18日)。
同社のシステムはアメリカで600以上の法執行機関や国土安全保障省が使用しているという。同社の出資者にはペイパルの創業者であるピーター・ティールもいる。
最初の顧客であるインディアナ州警察は、同社のClearview AIを試しに使ったところ、たった20分で犯人の特定に成功したという。Clearview AIの機能の評価は高く、前述のFBIのFACEを超えたという声もある。
Clearview AI社の危うさは、画像データの集め方だけではない。顧客の検索内容を把握し、その内容を確認して検索結果を歪めたことが、前掲の記事で指摘されている。同社は記者がClearview AIを導入している顧客に自分の名前を検索してもらった際、検索対象にならないように設定していた。特定の人物を法執行機関の検索から除外することもできるし、逆によくヒットするようにもできることを意味している。
2020年2月には同社の顧客リストが漏洩し、2,228の組織が利用していたことが判明した(BuzzFeed News、2020年2月27日)。しかもそのほとんどは同社と正式な契約を結んでいないフリートライアルの利用者で、記事を掲載したBuzzFeed Newsが取材したところ、利用した企業の責任者はなにも知らず従業員が勝手に利用していたケースもあった。
リストには全米の法執行機関(FBIや国土安全保障省などを含む)はもちろん大学や高校といった教育機関、ウォルマートやベストバイといった小売店チェーン、金融機関、AT&Tやベライゾンといった通信事業者などが含まれていた。利用者はアメリカ国外にも及んでおり、オーストラリア、ベルギー、カナダ、ブラジル、サウジアラビアなど27カ国に及んだ。
一連のトラブルは同社に逆風になるかと思われたものの、アメリカ移民・関税執行局(ICE)は同社と契約を締結した(The Verge、2020年8月14日)。
なお、同社は否定しているが、ゴーグルタイプの顔認証端末も開発中という噂もある。これが実現すれば見ただけで、相手の素性がわかるようになる。
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