コラム

イスラエル人女優が「クレオパトラ」役、でもホワイトウォッシングとは言えない?

2020年11月05日(木)18時50分

したがって、白人が演じても問題ないはずだが、プトレマイオス朝エジプト自体は多民族国家であり、ギリシア人だけでなく、ローマ人、エジプト人などさまざまな民族が混在していたと考えられ、王室も初代プトレマイオス以来、さまざまな血が混ざりあっていた可能性も高い。

やっかいなのはクレオパトラの、同時代の、たしかに彼女だという肖像画や彫像がほとんど残っていないことだ。ただ、クレオパトラらしいとされる彫像の大半がギリシア的風貌をしており、クレオパトラがギリシア的であったことはおそらくまちがいないだろう。

政治的発言が賛否を呼ぶイスラエル生まれのガル・ガドット

もう一つの問題は、クレオパトラ役のガル・ガドットが白人かということである。これも映画ファンなら知らない人はいないだろうが、彼女は生まれも育ちもイスラエルのれっきとしたイスラエル人で、2004年のミス・イスラエルでもある。したがって、「ユダヤ人」ということになる。

ただし、彼女の出自はアシュケナジムと呼ばれるドイツ・東欧系のユダヤ人であり、米国では一般に「白人(コーカソイド)」あつかいになっている。

とはいえ、ユダヤ人自身がみんなそう考えているかはわからない。実際、中東系(セファルディムやミズラヒム等)はアラブ人に似て浅黒い肌をしているものが多いし、エチオピア系ユダヤ人はエチオピア人とかわらないようにみえる。

いずれにせよ、自身も認めているように、彼女はきわめてユダヤ的な家族のなかで育ち、なおかつイスラエルは国民皆兵なので、当然、兵役にもついており、それが演技のうえで役に立ったともいっている。そして、パレスチナ問題に関しては明らかにイスラエル寄りの発言を行っていて、賛成反対含めてしばしば議論の的になっている。

不思議な因縁、エリザベス・テイラーもイスラエル支持者だった

不思議な因縁かもしれないが、1963年の『クレオパトラ』でクレオパトラを演じたエリザベス・テイラーもユダヤ教徒である。ただし、彼女はもともとキリスト教系の新宗教、クリスチャン・サイエンスの信者であった。そして、1959年にユダヤ教に改宗している。

時期的にユダヤ人の夫(プロデューサーのマイク・トッド、後に、歌手・俳優のエディー・フィッシャー)との関係が改宗に影響を与えたとの観測もあるが、彼女自身は否定し、みずからの意志であることを強調している。

その後、彼女は熱心なイスラエル支持者、シオニストとしても活動し、必然的にアラブ世界ではボイコットの対象となった。ハリウッドでは、ユダヤ系が多く活躍しているため、イスラエル支持者が少なくない(アラブ人のなかには最近までハリウッドがユダヤ人の支配下にあると主張するものが少なくなかった)。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン外相、外交優先なら米との合意可能 公正な早期

ワールド

トランプ氏、一般教書演説で「強く繁栄する米国」強調

ビジネス

インフレ2%なら利下げ可能も、生産性向上は過信すべ

ワールド

経団連、米エリオットとの非公開会合を延期 「諸事情
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 6
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 7
    IMF、日本政府に消費減税を避けるよう要請...「財政…
  • 8
    武士はロマンで戦ったわけではない...命を懸けた「損…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 10
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story