コラム

ディズニー恐るべし、『アラジンと魔法のランプ』は本当は中東じゃないのに

2019年11月27日(水)16時40分

タイム誌の報道後、トルドー首相はすぐに謝罪、「そのような(扮装を)すべきではなかった。もっとよく理解すべきであったが、(当時の自分は)そうではなかった。まことに申し訳ない」と述べ、写真が人種差別だと考えるかとの質問にも「そのとおり。当時はそれが人種差別だとは考えなかったが、今はもっときちんと理解している」と語り、全面的に非を認めている。

トルドー率いる自由党は2015年の選挙では圧勝したが、今回の選挙では、スキャンダルもあり、大苦戦、かろうじて第1党の座を死守したものの、過半数を割り込んでしまった。

2019年の実写版映画『アラジン』でもいろいろ問題になっていた

さて、黒塗り事件におけるトルドーの扮装だが、彼自身、パーティーがアラビアンナイトをテーマにしたもので、自分はアラジンの扮装をして、メーキャップをしたと証言している。

アラビアンナイトはもちろんアラビア語の古典文学『千夜一夜物語』のことであり、アラジンとはそのなかでも一番有名な物語の一つ『アラジンと魔法のランプ』の主人公である。ただ、案ずるに、バカでっかいターバンの扮装は、ディズニーのアニメ『アラジン』の影響を受けたのであろう。

この名作アニメが公開されたのが1992年、今年2019年には実写版も公開されている。東京ディズニーシーのアトラクションでもフィーチャーされているので、日本でもよく知られているはずだ。トルドーの扮装をみて、あーアレねとピンときたかたも多いのではないだろうか。

実写版映画の宣伝には「貧しくも清らかな心を持ち、人生を変えたいと願っている青年アラジンが巡り合ったのは、王宮の外の世界での自由を求める王女ジャスミンと、"3つの願い"を叶えることができる"ランプの魔人"ジーニー」とある。

トルドーのターバンは、アラジンがジーニーの魔法で「アリ・アバブア王子」に変身した姿をモチーフにしたものと考えられる。ただし、アニメのアラジンもアリ・アバブア王子もたしかに浅黒い肌で表現されていたが、トルドーの扮装ほど黒くない。明らかに誇張しすぎであろう。

実は、アラジンの実写版でも似たような事件が起きていた。中東が舞台ということで、アラジン役のエジプト系カナダ人のメナ・マスードをはじめ、主要キャストには中東と関わりのある俳優が選ばれていた。だが、ジャスミン王女役のナオミ・スコットは中東とは無関係であり、これがホワイトウォッシュ(白人化)ではないかと叩かれたのだ。ただ、スコットは半分インド人の英国人で、純粋な白人ではない。とはいえ、これがまたインド系と中東系をいっしょくたにしていると批判の対象となった。

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、米軍制服組トップ解任 指導部の大規模刷

ワールド

アングル:性的少数者がおびえるドイツ議会選、極右台

ワールド

アングル:高評価なのに「仕事できない」と解雇、米D

ビジネス

米国株式市場=3指数大幅下落、さえない経済指標で売
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ウクライナが停戦する日
特集:ウクライナが停戦する日
2025年2月25日号(2/18発売)

ゼレンスキーとプーチンがトランプの圧力で妥協? 20万人以上が死んだ戦争が終わる条件は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン化」の理由
  • 3
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 4
    1888年の未解決事件、ついに終焉か? 「切り裂きジャ…
  • 5
    飛行中の航空機が空中で発火、大炎上...米テキサスの…
  • 6
    ソ連時代の「勝利の旗」掲げるロシア軍車両を次々爆…
  • 7
    私に「家」をくれたのは、この茶トラ猫でした
  • 8
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 9
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 10
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 1
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 2
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される【最新研究】
  • 3
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ...犠牲者急増で、増援部隊が到着予定と発言
  • 4
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 5
    動かないのに筋力アップ? 88歳医大名誉教授が語る「…
  • 6
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 7
    7年後に迫る「小惑星の衝突を防げ」、中国が「地球防…
  • 8
    墜落して爆発、巨大な炎と黒煙が立ち上る衝撃シーン.…
  • 9
    ビタミンB1で疲労回復!疲れに効く3つの野菜&腸活に…
  • 10
    「トランプ相互関税」の範囲が広すぎて滅茶苦茶...VA…
  • 1
    週刊文春は「訂正」を出す必要などなかった
  • 2
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 3
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    1日大さじ1杯でOK!「細胞の老化」や「体重の増加」…
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    有害なティーバッグをどう見分けるか?...研究者のア…
  • 10
    世界初の研究:コーヒーは「飲む時間帯」で健康効果…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story