コラム

自衛隊「海外派遣」議論のきっかけはフェイクニュースだった

2017年07月28日(金)14時22分

さらにいえば、日本よりもっと悲惨な国がある。つまり、軍事貢献したにもかかわらず、感謝広告に名前が出なかった国だ。アフガニスタン、韓国、ハンガリー、ホンジュラス、スウェーデンの5か国である。このうちアフガニスタンは、記念切手にも名前が載らなかったのだから、一番かわいそうである(かといってアフガニスタンからクウェートに文句が出たという話は聞かないが)。

また、記念切手で日本と同様にはじめて感謝の対象になった国がある。インド、シエラレオネ、シンガポール、ソ連、フィリピン、ブルガリアである。さて、これらの国がクウェート解放にいかなる貢献をしたのか、日本の掃海艇派遣に匹敵することをしていたのか、ご存じのかたがどれぐらいいるだろうか。

hosaka170728-chart3.png

表2(筆者作成)

東日本大震災で支援したのに...とクウェートは言ったか?

クウェートが資金援助だけの日本に感謝しなかったというのは、今風のコトバでいえば、フェイクニュースである。その意味で、感謝広告事件が自衛隊の海外派遣を正当化するために利用されたという東京新聞の記事は正しいと思う。

わたしは何も自衛隊の海外派遣に反対しているわけではない。出だしの段階でこうしたインチキ臭いロジックがまかりとおってしまったことに憤っているだけだ。これは自衛隊にとっても残念なことであろう。

ちなみに2011年4月27日付朝日新聞は、クウェートが東日本大震災の復興支援として原油500万バレルの無償提供を発表したというニュースを報じたが、いっしょに湾岸戦争のときに感謝広告で日本の名前を挙げなかったこともつけくわえている。昔は感謝しなかった国でも復興支援には協力してくれたということだろうか。

なお、500万バレルというのは約400億円に相当する(実際には原油以外の支援もかなりの額にのぼる)。当時、東北への支援として、米国がいくら出したとか、台湾がいくらとか、話題になったが、400億円というのはその米国や台湾からの援助よりも金額ではるかに上なのである。知ってました?

クウェートの支援が日本であまり知られていないことについてクウェートが文句をいったというのは寡聞にして知らない。135億ドルと比較すれば、大したことないともいえるが、135億ドルの大半が米軍にいっていたことを考えれば(クウェートには約6億円しかわたっていないとされる)、クウェートは日本に十分すぎるほど感謝していたといえるのではないだろうか。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

保坂修司

日本エネルギー経済研究所中東研究センター研究顧問。日本中東学会会長。
慶應義塾大学大学院修士課程修了(東洋史専攻)。在クウェート日本大使館・在サウジアラビア日本大使館専門調査員、中東調査会研究員、近畿大学教授、日本エネルギー経済研究所理事・中東研究センター長等を経て、現職。早稲田大学客員上級研究員を兼任。専門はペルシア湾岸地域近現代史、中東メディア論。主な著書に『乞食とイスラーム』(筑摩書房)、『新版 オサマ・ビンラディンの生涯と聖戦』(朝日新聞出版)、『イラク戦争と変貌する中東世界』『サイバー・イスラーム――越境する公共圏』(いずれも山川出版社)、『サウジアラビア――変わりゆく石油王国』『ジハード主義――アルカイダからイスラーム国へ』(いずれも岩波書店)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story