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アングル:インドの宇宙ビジネス、ニッチな小型衛星とデータ処理で勝負

2024年10月20日(日)07時48分

 インド政府は、宇宙ビジネスを巡る競争に参入するための計画を進めている。写真はインドのカヴダにあるアダニ・グリーン・エナジー社の再生可能エネルギー・パークで、太陽光パネルを設置する作業員。4月12日撮影(2024年 ロイター/Amit Dave)

Nivedita Bhattacharjee

[ベンガルール 14日 ロイター] - インド政府は、宇宙ビジネスを巡る競争に参入するための計画を進めている。高官らによると、米スペースXのような大手企業と真っ向対決するのではなく、宇宙データの処理、小型衛星の製造、その安価な打ち上げに重点を置く戦略だ。

中でも通信、農業、商品など、質の高いデータが貴重な資源となる分野に向け、費用対効果の高いサービスとハードウエアを提供することを目指している。打ち上げ市場は2031年までに145億4000万ドル(約2兆1700億円)、関連データサービス市場は30年までに450億ドルに膨らむと推計される。

インド宇宙協会のAKバット事務局長は「世界はボーイング機ほどの大きさの衛星から、ノートパソコン大の衛星へと移行した」と指摘。「これは(スペースXを運営する実業家)イーロン・マスク氏が支配する大型ロケット打ち上げに挑戦することなく、インドが勝利を収めることのできる分野だ。この国は長年にわたりデータマイニングとデータ解釈において優位性を確保してきた」と語った。

インドは2月以来、宇宙産業を民間企業に開放するとともに、宇宙に関わる新興企業を支援するために100億ルピー(1億1900万ドル)のベンチャー・ファンドを創設した。有人宇宙探査や金星探査の計画も発表しているが、焦点は商業ベンチャーの開発にある。

これは多くの面で険しい道のりだろう。日本や中国など他の国々は高度な宇宙産業を抱え、安価な打ち上げの設計も有する。宇宙飛行自体が困難であり、世界的に見ても、新興企業が打ち上げロケットや衛星の設計に失敗した例は枚挙にいとまがない。

米アリゾナ州立大学の宇宙政策専門家、ナムラタ・ゴスワミ氏は「インドには技術も能力もあるが、宇宙産業は一筋縄では行かず、競争も非常に激しい。民間企業は自らニッチ市場を創り上げることを示してきたが、そうした構想には今後多くの実証が必要だ」と述べた。

同氏は、インド政府は民間企業にとっての「アンカーカスタマー(中核となる固定客)」になる必要がある、と付け加えた。

インドの宇宙規制機関「IN―SPACe」のパワン・ゴエンカ会長は、増収の大半は、いわゆる「下流」のデータアプリケーションから得られるだろうと言う。つまり、農作物の収穫向上、より正確なナビゲーションシステムの構築、通信の増強、国境警備の強化、気候変動対策などのためのデータ分析だ。

インド企業のベラトリックス・エアロスペース、ピクセル、アグニクル・コスモス、ドルバ・スペースなどは、既に小型衛星や衛星部品の製造や打ち上げを行っている。

インド宇宙研究機関(ISRO)は先月、小型衛星打ち上げロケットの3回目の最終開発飛行を完了した。その後、設計は民間企業に引き継がれる。

ゴエンカ氏は「地球観測の最終用途は広大だ。私たちが行っているのは、パズルのさまざまな部分への対処だ」と語った。

例えばベンガルールを拠点とするサットシュア社はインド空港局にほぼリアルタイムの衛星データを提供し、航空交通管理と安全性の向上に貢献している。航空会社にとっては、飛行計画の改善を通じた燃料コストの削減につながる。25年までの燃料費削減は年間375億ルピー(4億4600万ドル)に上ると当局は推計している。

地球観測(EO)衛星は他の分野でも同様のコスト削減を実現できるとする同社のプラティープ・バスー最高経営責任者(CEO)は「EOは公益事業からナビ、貿易、産業に至る問題を解決し、数百万ドルのコスト削減に役立っている」と述べた。

<政府の後押し>

政府が市場を開放して以来、大小さまざまな企業が参入した。インフォシスのような代表的IT企業が衛星画像会社ギャラクスアイ・スペース・ソリューションズに投資する一方、米グーグルが支援するピクセルは米航空宇宙局(NASA)と契約を結び、サットシュアはHDFC銀行や世界的な種苗会社シンジェンタなどの顧客を獲得している。

ドルバ・スペースは、これまでISROの専売特許だった地球上の衛星通信センターの運営許可を最初に取得した企業のひとつとなった。

フランスに拠点を置くコンサルタント企業、テラウォッチ・スペースの創設者、アラビンド・ラビチャンドラン氏は「インドはソフトウエア大国であり、データサイエンス、機械学習、人工知能(AI)の分野において世界屈指の頭脳を生み出している。宇宙の下流市場とは、つまるところソフトウエア市場だ」と述べた。

コンサルティング会社ユーロコンサルタントは、23年から32年の間に重量500キロ未満の小型衛星が2万6104基、軌道に投入され、1日あたりの打ち上げ重量は平均1.5トンになると予測している。今後10年間で小型衛星産業全体の規模は1105億ドルに達する見通しだという。

インドの宇宙企業には既に大量の投資資金が流入しているが、商業宇宙セクターにおけるインドのシェアは2%程度に過ぎない。需要は依然としてグローバルな顧客頼みで、米国、ロシア、中国の大手企業が手ごわいライバルだ。

ピクセルのアワイス・アハメド創業者兼CEOは「真の打撃を与えるには、(インドの)ソリューションは南アジアの他の地域、そして世界の他の地域に拡大しなければならない」と語った。

ロイター
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