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アングル:中朝の蜜月、「非核化」巡り隙間風 ちらつくロシアの影

2024年05月29日(水)18時33分

5月29日、北朝鮮は、日中韓首脳が朝鮮半島の非核化へのコミットを示したことに反発した。写真は2023年9月、ロシア極東アムール地方のボストーチヌイ宇宙基地に掲げられたロシアと北朝鮮の国旗。代表撮影(2024年 ロイター/Sputnik)

Josh Smith

[ソウル 29日 ロイター] - 北朝鮮は、日中韓首脳が朝鮮半島の非核化へのコミットを示したことに反発した。直接的ではないものの中国を非難するのは異例で、専門家や当局者は、他の分野では関係が良好な中朝関係だが、核問題では足並みが揃ているわけではないいことが浮き彫りになったと指摘する。

日中韓首脳が27日に採択した共同宣言は、「地域の平和と安定、朝鮮半島の非核化に関する立場を改めて表明した」とした。北朝鮮はその日のうちに「重大な政治的挑発と主権侵害」と非難した。

共同宣言は、中国側の働きかけで北朝鮮と名指しせず、朝鮮半島とした。また2019年の前回会合まであった、非核化を追求するという表現も使われなかった。

それにもかかわらず北朝鮮は反発したのは注目に値すると米ブルッキングス研究所のパトリシア・キム氏は指摘する。

カーネギー国際平和財団の核専門家、趙通氏は、北朝鮮が最終的な非核化を同国に求める趣旨のいかなる表現も拒否するという立場を鮮明にしたとみている。

中国外務省の毛寧報道官は28日の記者会見で、北朝鮮の非難について「朝鮮半島問題に関する中国の基本的立場は変わらない」と述べた。非核化については言及しなかった。

韓国外務省当局者は、日中韓首脳の間で北朝鮮問題で大きな意見の相違があったと指摘。中国は昨年以来「非核化」という言葉を使っていないとし、「現在の地政学的状況を踏まえると、この問題に関するこれまでの合意のようなものに中国が同意するのは難しいと思う」と述べた。それでも会談では中国の非核化に関する基本的な立場は変わっていないことが示され、共同宣言で「非核化」という言葉が正式に使用されたことは「意味がある」と評価した。

<ロシアの影>

中国は北朝鮮にとり、唯一の軍事同盟国で最大の貿易相手国だ。

日中韓首脳会談のすぐ後に北朝鮮は失敗に終わったものの偵察衛星を打ち上げた。研究者のレイチェル・ミンヨン・リー氏は北朝鮮情報分析サイト38ノース向けのリポートで、これは偶然の一致ではなく、中国に対するメッセージの一部と見なすべきだと指摘。「中朝関係はここ1年、冷え込む兆候が見られていたが、それが表面化したのは今回が初めてだ」と述べた。

ブルッキングス研究所のキム氏も、北朝鮮の行動は中国との関係が外から見えるほど良好でないことを示すとみる。「中朝が公式な対話や要人の往来を継続し、中国は北朝鮮を国際的圧力から守り続けているが、長年にわたる相互不信や侮蔑が両国の連携進化の障害になっている」と述べた。

キム氏は、北朝鮮とロシアの接近も中朝関係に影響を与えていると指摘。北朝鮮がロシアとの関係強化で中国に対して自国の立場が強くなったと考え、中国をあまり気遣わなくてもよいと考えている可能性があるという。

カーネギー財団の趙氏は、北朝鮮とロシアの軍事協力の深化が、ほぼ独占的な北朝鮮への影響力を損ねる可能性を中国は懸念しているとみる。中国は主要な西側諸国との実質的な協力も重視し、中ロ朝の事実上の同盟関係が西側との協力に悪影響を与えないよう注意もしているという。

今回の北朝鮮の非難について、趙氏は必ずしも中朝関係の問題が深刻化しているわけでなく「二国間関係は、より緊密な協力関係に向けて、安定したペースで徐々に進んでいるようだ」との見方を示した。

ロイター
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