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アングル:米で肥満症治療薬の利用者急増、企業健保がパンク状態

2023年06月30日(金)11時02分

 ヘルスケア企業ノボ・ノルディスクの高額な肥満症治療薬「ウゴービ」の利用が米国で急増し、健康保険制度を備える大企業は費用負担の増加に頭を悩ませている。シカゴで3月撮影(2023年 ロイター/Jim Vondruska)

[27日 ロイター] - ヘルスケア企業ノボ・ノルディスクの高額な肥満症治療薬「ウゴービ」の利用が米国で急増し、健康保険制度を備える大企業は費用負担の増加に頭を悩ませている。

ニューヨークに住むショーンテさん(46)は長年肥満に悩んできたが、2020年にノボ社の糖尿病治療薬「オゼンピック」を肥満治療用に処方されてから、2年で22キロ以上の減量に成功した。

ところが昨年、夫が勤めるメディア、ワーナー・ブラザーズ・ディスカバリーの健康保険制度から、「あなたは糖尿病ではないのでオゼンピックの費用はカバーできない」と告げられ、もっと安価だが効果の小さい肥満治療薬を利用するよう指示された。

米当局は2021年に肥満治療に特化した高価な新薬ウゴービを認可していた。ショーンテさんの夫が人事部に苦情を申し立てると、会社はウゴービの費用を負担することに同意した。 

「私がおとなしく拒否を受け入れていたら、減量にこれほど成功していなかったはず」とショーンテさんは語る。彼女は今もウゴービを利用中だ。

ロイターはワーナー・ブラザーズにコメントを求めたが、同社は回答を控えた。

勤務先の大企業を通じて健康保険を利用している米国民は数千万人に上る。ヘルスケアのコンサルタント2人と医師7人に取材したところ、ショーンテさんと同様の事例が、こうした人々の間で増えていることが分かった。

大企業(従業員5000人以上)の多くは肥満治療薬を保険でカバーしている。しかし高額なウゴービの利用者が急増しているため、コスト負担の急増を防ぐために再考を迫られている。

ウゴービの処方が増え始める昨年末まで、企業にとって肥満治療薬の保険負担はわずかな支出に過ぎなかった。入手可能な治療薬は効果が小さくほとんど利用されていなかったり、ジェネリック(後発)医薬品が出たりしていたからだ。

企業はまた、肥満による疾病リスクを抑える意味でも肥満治療を支援してきた。

2021年にウゴービが、続いて22年にイーライ・リリーの糖尿病治療薬「マンジャロ」が販売されると、様相は一変した。

いずれの薬も臨床試験で15%前後の減量効果が示されている。だが企業のウェブサイトによると費用は月額1000ドル以上で、リバウンドを防ぐため恒久的に使い続けなければならない場合もある。

バークレーズ・リサーチによると、減量を目的としたウゴービの新規処方は、1月最終週の週4万5000件から、5月には同約13万5000件に増えた。

この結果、今年1─2月の2カ月分の企業健康保険コストは、昨年1年間分の3.5倍に膨らんだと、ウィリス・タワーズ・ワトソンのコンサルタント、ジェフ・レビンシャーツ氏は指摘する。該当する従業員の半分がこれらの薬を使っただけでも、企業の保険負担は50%増える計算だという。

同氏は、こうした状況が続けば健康保険の運営を維持するのは非常に難しくなると予想。企業によっては「カバーはするが全額ではない」とか、「重要なことなのでカバーを続けるが、利用のハードルを上げるために制限を設ける」といった対応が出てくるかも知れないと話す。

イーライ・リリーは企業健康保険についてのコメントを控えた。ノボ・ノルディスクは、ウゴービは他の慢性病治療薬と同様にもっと幅広く保険でカバーされるべきだ、との考えを示した。

企業は既に、患者がウゴービを利用する必要があることを示す医療機関の書類を、保険負担の条件としている。エーオンのコンサルタント、マイケル・マノラキス氏によると、他にも条件を加える企業が増えている。

医師らによると、一部の企業は患者に対し、ウゴービよりも安い肥満症治療薬や、食事療法と運動を組み合わせた減量プログラムを試すよう求めている。3カ月以内に4%以上減量しなければウゴービの利用を制限する企業もあるという。

デューク大学の医学教授、ウィリアム・ヤンシー氏は「(これらの薬の)ジェネリックや安価版が出てこない限り、この状況が続くと予想される」と述べた。

(Patrick Wingrove記者)

ロイター
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