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アングル:ハイパーインフレのアルゼンチン、ごみ物色や物々交換も

2022年10月15日(土)07時56分

 10月13日、南米アルゼンチンは猛烈なインフレに見舞われている。写真はブエノスアイレス郊外の物々交換クラブで、客を待つ人。10月5日撮影(2022年 ロイター/Agustin Marcarian)

[ブエノスアイレス 13日 ロイター] - 南米アルゼンチンは猛烈なインフレに見舞われている。暮らし向きが苦しくなった市民は、再利用できるものを探してごみの山をあさったり、物々交換会に参加するするなど、日々の生活を続けるのに必死だ。

今年の消費者物価指数(CPI)の年間上昇率は100%を突破し、1990年前後のハイパーインフレ期以来となる高い伸びになる見通し。ロシアのウクライナ侵攻で悪化したインフレを抑え込む取り組みは世界中で繰り広げられているが、アルゼンチンの物価高騰は突出している。

「もう収入が足りない」と嘆くセルギオ・オマルさん(41)は、首都・ブエノスアイレス郊外ルハンにあるごみ処理場で1日12時間ごみの山をあさる。段ボールやプラスチック、金属などを探し、売っている。

食品価格がこの数カ月間で急騰し、5人のこどもを抱えるオマルさんは家族を養うのが難しくなった。生活が行き詰まり、ごみ処理場で売れるものを探す人は増えているという。

「状況が危機的になり、ここに来る人は2倍になった」とオマルさん。リサイクル可能な廃棄物を売れば、1日に2000-6000ペソ(13─40ドル)を稼ぐことができる。

ロイターの記者は、ごみ処理場でまだ使える衣類どころか食料すら探し回っている男女の姿を目撃した。ごみの山では腐敗した廃棄物から出るガスが突然発火したり、ネズミや野犬、腐肉をついばむ鳥が群れている光景が広がっていた。

アルゼンチンは1世紀前には世界で最も豊かな国の1つだった。しかし、近年は繰り返し経済危機に見舞われ、インフレを抑え続けるのが困難になっている。

紙幣の増刷と企業による値上げの悪循環という従来の問題に、肥料と天然ガスの輸入コスト上昇が追い打ちをかけ、足元の物価上昇ペースは1990年代以降で最も速い。

ロイターのアナリスト調査によると、9月のインフレ率は前月比6.7%と予想され、中央銀行は政策金利を75%に引き上げ、その後も引き締めを続ける可能性がある。

今年上半期の貧困率は36%を突破。極貧層は全人口の8.8%、約260万人に上っている。政府の支援計画がこれ以上の悪化を防いではいるが、国家予算が限られているにもかかわらず、福祉予算の拡大を求める声も出ている。

アルゼンチンがひどい経済危機のさなかにあった2001年にサンドラ・コントレラスさんが立ち上げた「ルハン物々交換クラブ」は最近、再び活動が盛り上がっている。物価高についていけない人々が、古着を小麦粉やパスタと交換しようとやって来る。

「給料が足りず、状況が毎日のように悪化しているから、みんなものすごく必死になっている」とコントレラスさん。「お金がなくて、でも家に何か持って帰らなければいけないから、物々交換するしかない」と説明する。

小さなリサイクルセンターで働くパブロ・ロペスさん(26)には物価高騰の傷跡がくっきりと見える。「今回のインフレは常軌を逸している。作業している人たちを見ると、インフレが私たちみんなに襲い掛かっていることが分かる」という。

(Lucila Sigal記者)

ロイター
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