ニュース速報

ワールド

アングル:インフレ加速のアルゼンチン、仮想通貨が人気

2022年06月05日(日)08時08分

 5月30日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの繁華街にあるカフェ「クリプトステーション」では、暗号資産(仮想通貨)相場をリアルタイム表示するスクリーンや「ビットコイン」の巨大なネオンサインに囲まれて、今どきの若者たちがカフェラテやスイーツを注文している。5月5日撮影(2022年 ロイター/Agustin Marcarian)

[ブエノスアイレス 30日 ロイター] - アルゼンチンの首都ブエノスアイレスの繁華街にあるカフェ「クリプトステーション」では、暗号資産(仮想通貨)相場をリアルタイム表示するスクリーンや「ビットコイン」の巨大なネオンサインに囲まれて、今どきの若者たちがカフェラテやスイーツを注文している。支払いも仮想通貨で行える。

アルゼンチンはインフレ率が足元で60%近くまで上昇し、倹約に努める市民は何年も続くつらいインフレから身を守るため、仮想通貨に引き込まれている。仮想通貨は最近相場が暴落し、ビットコインを法定通貨に採用した中米エルサルバドルでは問題が起きているが、お構いなしだ。

クリプトステーション創業者の1人のマウロ・リバーマンさん(39)は「人々は国の環境に駆り立てられて仮想通貨で財産を守ろうとしており、拡大スピードが加速している」と話した。この店舗は仮想通貨の利用促進を狙っているという。

仮想通貨は「中南米全域で成長の可能性がものすごく大きい」とリバーマンさん。アルゼンチンではユーザーの大半が貯蓄手段として購入しており、「雪崩のようで、止めるのは不可能だ」という。

アメリカス・マーケット・インテリジェンスの4月のリポートによると、アルゼンチンにおける仮想通貨の普及率は12%で、メキシコやブラジルの約2倍。最近のチェーンアナリシスのリポートによると、ハイパーインフレに悩むベネズエラは普及率がさらに高い。

<インフレが後押し>

アルゼンチンは通貨ペソが今年に入って対ドルで14%も下落し、信認が傷ついたことが仮想通貨普及の引き金になった。個人が購入できる米ドルに月200ドル(約2万5600円)の上限を設ける資本規制も仮想通貨の利用促進に拍車をかけている。

4月の年間インフレ率は58%に上昇し、年内に70%に達する可能性がある。テラUSDやテザーなどステーブルコイン(法定通貨の価値に連動する仮想通貨)の価格が下落し、ビットコインが1年4カ月ぶりの安値を付けるなど、仮想通貨はこのところ大きく値を下げているが、それでも魅力的なのはこの高いインフレ率が原因だ。

ブエノスアイレス州のIT専門家、ビクトール・レブレロさん(44)は、月200ドルの上限までペソをドルと交換した後は、余裕資金を毎月ステーブルコインとビットコインで貯蓄している。ペソ建ての定期預金はしていない。

「基本的にその方が失うものが少ないから」とレブレロさん。「アルゼンチンのインフレ率は60%から70%だけど、定期預金の金利は30%から35%だから追いつかない」

レモン・キャッシュやブエンビットなどアルゼンチンで業務展開している仮想通貨プラットフォーム運営会社によると、ユーザーの裾野は昨年急激に広がったという。

アルゼンチン中銀は不安定なデジタル通貨に投資するリスクを繰り返し警告しており、慎重な市民もいる。

自営業のコンピューター技術者、マルセロ・ビラさん(37)は、今のところビットコインとイーサリアムに少額を投資しているだけだ。「仮想通貨に投資するお金の割合を徐々に大きくしていく考えだ。でも仮想通貨市場を理解するまでは、それほど多くを振り向けられない」と話した。

一方、首都郊外の貧しいエスコバル地区出身のセバスチャン・カルソリオさん(23)は、仕事で使うパソコンの部品を再利用して組み立てた自作の仮想通貨「鉱山」を使い、貧困から抜け出そうとしている。

自宅のスクリーンには採掘(マイニング)の様子が映し出されていた。「修理してコンピューターに組み込んだ」とカルソリオさん。手始めがイーサリアム、次がビットコイン。おかげで土地を買い、学校に戻ることができた。

「貯蓄するのに良い方法だから採掘を続けていく」と語り、市中の交換所よりも有利なレートでペソと交換できると説明。「お金がないとき、採掘で何度も救われた」と話した。

(Hernan Nessi記者、Agustin Geist記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

英独仏とイランの核協議、進展なし トランプ氏復帰前

ワールド

ガザ難民キャンプなどで40人死亡、イスラエルが攻撃

ワールド

安楽死法案に支持多数、議論は継続 英下院

ワールド

インドネシア中銀、当面は通貨安定に重心 25年には
MAGAZINE
特集:老けない食べ方の科学
特集:老けない食べ方の科学
2024年12月 3日号(11/26発売)

脳と体の若さを保ち、健康寿命を延ばす──最新研究に学ぶ「最強の食事法」

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 2
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える新型ドローン・システム
  • 3
    エスカレートする核トーク、米主要都市に落ちた場合の被害規模は想像を絶する
  • 4
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 5
    バルト海の海底ケーブルは海底に下ろした錨を引きず…
  • 6
    バルト海の海底ケーブル切断は中国船の破壊工作か
  • 7
    ペットの犬がヒョウに襲われ...監視カメラが記録した…
  • 8
    定説「赤身肉は心臓に悪い」は「誤解」、本当の悪者…
  • 9
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 10
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    寿命が5年延びる「運動量」に研究者が言及...40歳からでも間に合う【最新研究】
  • 4
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    BMI改善も可能? リンゴ酢の潜在力を示す研究結果
  • 7
    リュックサックが更年期に大きな効果あり...軍隊式ト…
  • 8
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 9
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 10
    「時間制限食(TRE)」で脂肪はラクに落ちる...血糖…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中