ニュース速報

ワールド

アングル:米国行き望むアフガン避難民、第3国で足止め数万人か

2021年09月04日(土)08時19分

9 月2日、8月半ば、アハマドさん(43歳)に甥のジアさんから緊急の電話が入った。写真は8月、ドーハの空港に到着いたアフガンからの避難民。カタール政府提供(2021年 ロイター)

[2日 ロイター] - 8月半ば、アハマドさん(43歳)に甥のジアさんから緊急の電話が入った。今すぐカブール空港に来て、何とか国外退避用の飛行機に乗れるよう試みて──。

その頃、アフガニスタン駐留米軍に協力していたジアさんを探そうと、イスラム主義組織タリバンのメンバーが、首都カブールにあるアハマドさん宅を訪れていた。アハマドさんのことも狙っている。警察に行くために外出中だったアハマドさんに、ジアさんはそう告げた。

甥のジアさんが米軍に関与していたため、自分も捕らえられたり処刑されたりするかもしれない。そう恐れたアハマドさんは妻と6人の子どもを連れて空港に向かったが、入り口で群衆にもまれるうちに家族と離れ離れになったという。

アハマドさんは担当者に、携帯電話にあった甥のグリーンカード(米国の永住資格証明書)の写真を見せ、自分は彼の家族だと話した。それだけで米同盟国のカタールに向かう飛行機に――1人で――乗ることが認められた。

大急ぎで国を脱出した何万人ものアフガン国民は今、カタールやドイツ、イタリアの米軍基地など、第3国の「トランジット拠点」で待機している。

身元証明の書類を持たない者、米国のビザ(査証)申請を済ませていない者、家族が複数の移民ステータスを持つ者なども含まれ、最終的に米国にたどりつくためには、煩雑な移民審査を乗り越える必要がある。

通訳を通じて電話取材に応じたアハマドさんは、国で身を隠している妻と5人の娘、2歳の息子について「残してきてしまったことが苦しくてたまらない」と語った。

米統合参謀本部のマーク・ミリー議長は1日、避難者の数について、欧州と中東の9カ国に約4万3000人、米国の軍事基地8カ所に約2万人いると説明した。

アハメドさんによると、カタールの米軍基地では避難者が食べ物をもらうために何時間も行列に並んでいる。到着時から着たきりの服は、気温38度の熱射の中であっという間に汗まみれになってしまった。

米国の永住資格を持つ甥のジアさんは、カタールで2週間待機した後、妻と5人の子どもと共にシアトルに飛ぶことができた。アハメドさんともう1人の甥は、アフガン国籍の証明書しか持たないため、カタールにとどまっている。

米当局者らは今週2人の指紋を採ったが、いつ米国行きの便に乗れるかについて、新たな情報は与えてくれなかった。通訳その他で米国に協力した人に付与される「特別移民査証(ビザ)=SIV」の申請もしていない。

ビザを持たない避難者の中には、緊急の人道的理由で一時的に米国入りを認められた者もいる。これは従来の難民制度に則った措置ではない。

<審査に時間>

ホワイトハウス高官によると、米国は入国を望む避難者を審査するため、海外基地の人員を増強している。

しかし、難民支援団体や移民関連の弁護士、アフガン人などに取材したところ、避難者の一部はいつまで外国の地で待たなければならないのか、いまだに分からない状態だ。

移民支援団体は以前から、SIVの申請手続きの遅さを批判してきた。何年間も未解決のままになっている請願も多いという。

支援団体によると、米国はアハマドさんのようにビザを申請していない人について、身分証明書を持たずに国境を越えてくる難民や、亡命希望者を審査した経験を参考にできるはずだ。

多くのアフガン人は過去何年もの間に、米政府当局、もしくは米国と情報を共有するアフガン当局によって指紋と写真を採取されている。

軍事・移民専門家のマーガレット・ストック氏は「米国は人々の身元を割り出すことが可能だが、それには時間と資源を要する。米政府はわざわざ人々を助けようとするだろうか、それとも自分で耐えがたい重荷を負うよう強いるだろうか」と語った。

<政府の目が届かない避難者も>

海外の米軍基地で待機する人々以外に、非営利団体や企業、退役軍人の組織など民間が緊急で手配した便で国外退避したアフガン人も数千人に上る。

そうした支援に携わっている元ホワイトハウス高官のスティーブ・ミスカ氏は「わが国の目が届いているかが定かでない部類の避難者がいる」と説明。こうした人々は米国への入国申請に苦労する可能性があり、非常に心配だという。

事情に詳しい外交官によると、米国の非営利団体がチャーターした便により、約3500人のアフガン人がアラブ首長国連邦(UAE)に退避した。米政府は政府の便でUAEに退避させた約4000人を優先的に扱うため、これらの人々全員の手続きが終わるまでには数カ月を要する見通しだという。

米国に退避することができたアフガン人の中には、もっと多くの親類を一緒に連れて来られたのではないかと苦脳する人もいる。今はシアトルにいるジアさんの妻、タヘラさんは「強い罪悪感を覚える。彼らを脱出させられていれば、と思って」と語った。

(Kristina Cooke記者、Mica Rosenberg記者)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

独ミュンヘンで銃撃、イスラエル領事館付近 警察は「

ビジネス

米ISM非製造業総合指数、8月は51.5でほぼ横ば

ワールド

米財務長官、USスチール買収阻止巡る報道にコメント

ワールド

米、先端技術を巡る新たな規制公表 英などと共同歩調
MAGAZINE
特集:日本政治が変わる日
特集:日本政治が変わる日
2024年9月10日号(9/ 3発売)

派閥が「溶解」し、候補者乱立の自民党総裁選。日本政治は大きな転換点を迎えている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 2
    エルサレムで発見された2700年前の「守護精霊印章」...その希少性と謎
  • 3
    「私ならその車を売る」「燃やすなら今」修理から戻ってきた車の中に「複数の白い塊」...悪夢の光景にネット戦慄
  • 4
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 5
    世界最低レベルの出生率に悩む韓国...フィリピンから…
  • 6
    国立西洋美術館『モネ 睡蓮のとき』 鑑賞チケット5組…
  • 7
    トランプ参謀は共和党のキングメーカー(?)で陰謀…
  • 8
    グレタさん、デンマークで身柄拘束...ガザ反戦デモに…
  • 9
    荒川河川敷ホームレスの「アパート」と「別荘」を、…
  • 10
    パリ・パラ男子バレー競技で「無敵」の強さのイラン.…
  • 1
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 2
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクドナルド「ハッピーセット」おもちゃが再び注目の的に
  • 3
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン」がロシア陣地を襲う衝撃シーン
  • 4
    中国の製造業に「衰退の兆し」日本が辿った道との3つ…
  • 5
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 6
    無数のハムスターが飛行機内で「大脱走」...ハムパニ…
  • 7
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 8
    死亡リスクが低下する食事「ペスカタリアン」とは?.…
  • 9
    再結成オアシスのリアムが反論!「その態度最悪」「…
  • 10
    小池都知事は「震災時の朝鮮人虐殺」を認める「メッ…
  • 1
    ウクライナの越境攻撃で大混乱か...クルスク州でロシア軍が誤って「味方に爆撃」した決定的瞬間
  • 2
    寿命が延びる「簡単な秘訣」を研究者が明かす【最新研究】
  • 3
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 4
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すれば…
  • 5
    ハッチから侵入...ウクライナのFPVドローンがロシア…
  • 6
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 7
    日本とは全然違う...フランスで「制服」導入も学生は…
  • 8
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 9
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 10
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中