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情報BOX:コロナ禍の米大統領選、注目の「選挙監視人」とは

2020年10月10日(土)08時11分

10月7日、米大統領・議会選を巡り、与党・共和党は支持者数千人を動員して、期日前投票所や郵便投票の回収箱に不正がないか見張らせようとしている。写真は9月、ノースカロライナ州ローリの選挙管理委員会で、投票用紙の発送準備をする係員(2020年 ロイター/Jonathan Drake)

[ワシントン 7日 ロイター] - 11月3日の米大統領・議会選を巡り、与党・共和党は支持者数千人を動員して、期日前投票所や郵便投票の回収箱に不正がないか見張らせようとしている。これは本来、法令で定められた「選挙監視人」が果たす役割だ。

選挙監視がどのような歴史的な経緯をたどってきたか、また、新型コロナウイルスのパンデミックに伴う郵便投票の急増や、トランプ大統領が根拠なく郵便投票で不正が起きると主張していることで、選挙監視にどれだけ新たな意味合いが帯びてくるか、以下で説明する。

<選挙監視とは>

選挙監視人が米国の選挙制度の一部になった起源は、18世紀にさかのぼる。監視活動は州法や地元自治体の規則に基づいて行われ、与野党双方から選出された人々が投票や、さらには相互の監視人をも見張り、円滑な選挙の進行を確保する。

州によって選挙監視人の呼び方や、与えられた役割はさまざまだ。ある地域では監視専門の「ウオッチャー」と、投票の違法性を指摘することができる「チャレンジャー」は明確に区別される。ところが、別の地域では監視と投票の異議申し立ての権限を同じ人が有する。

投票所の外で特定候補者の支持者たちが看板掲示やちらし配布などで陣営側への投票を誘おうとする際に、こうした支持者たちがどこまで近寄ってよいかを定めているところもある。

監視人の越権行為に対する不満も、頻繁に出てくる。時には監視人が、マイノリティーを差別する意図で有権者の投票資格に異を唱え、そうした行為を阻止するための訴訟が起こされたケースもある。

1999年のミシガン州ハムトラムク市の選挙では、「より良きハムトラムクのための市民」と称する団体から送り出されたチャレンジャーが、「暗い肌の色と明らかなアラビア風の氏名」を持った40人のアラブ系米国人の投票資格に疑義を呈し、彼らは選管当局から米国市民であると宣誓証明することを強いられた。その後、同市は司法省からの命令で選挙従事者に対する研修を行うことを受け入れ、2003年まで市の選挙を監督する連邦政府の担当者が任命された。

1981年には、ニュージャージー州の選挙で共和党側が主にマイノリティーが居住する地域で投票所の外に武装した人員を配置する不穏な行為があり、以後、同党は投票の安全確保のために行き過ぎた措置を講じないことに同意した。ただ、この取り決めは、民主党からの更新の要請を連邦裁判所が却下したため、2018年に失効しており、今回の選挙で共和党は再び制約なしに投票所の「治安維持活動」が可能となる。

<選挙監視に関する規定>

選挙監視の有資格者や権限は、州によって非常に大きな違いがある。例えば、ペンシルベニアでは選挙監視のほか、投票率と投票機械を点検し、選管当局に懸念を伝える形で投票に異議を申し立てることができる。もっとも有権者との直接のやり取りや、単に投票を遅延させるための異議申し立ては禁じられている。

監視人の資格要件もひとくくりにできないが、通常は登録有権者であることが想定されている。一部の州では、あらかじめ選管当局に認定を受けなければならない。ノースカロライナの場合は「道徳的に優れた人物」が求められる。

投票の大半を郵便方式で実施する州の法令でも、監視人は認められている。オレゴンでは、各政党とその候補者が選挙従事者の開票や集計を監視する人を送り出すことができるが、そうした監視人がこれらの手続きを妨害してはならないとの規定がある。

<今年の特徴>

パンデミックの発生で今年の選挙は、投票所ではなく郵便を利用する有権者がかつてないほど多くなる。

トランプ氏は具体的な根拠を示さないまま、郵便投票が不正の温床になると繰り返し、同陣営はペンシルベニアのように1人が複数の投票用紙をまとめて投函するのをおおむね禁じている所で、そうした不適切行為を監視する数千人のボランティアを集めつつある。

こうした動きで試されているのは、投票日に投票所に行くことを前提としている選挙関連法の枠組みだと専門家は話す。ペンシルベニアのフランクリン・アンド・マーシャル大学のテリー・マドンナ教授(政治学)は、期日前投票の場所に監視人が立ち入ろうとすることや、郵便投票を投函しようとしている有権者に異議を唱えようとする可能性を巡り、そうしたことでのルールブックなど存在しないと述べた。

<銃による威嚇の不安>

今年は抗議デモと武装した市民グループが衝突する光景が見られただけに、公正な選挙権確保を推進する団体などからは、投票所の外に銃で威圧する集団が戻ってくるのではないかとの不安が広がっている。

ペンシルベニア、ミシガン、ノースカロライナ、ウィスコンシン、バージニアといった激戦州では、市民が公の場で銃を携帯する「オープン・キャリー」が許される地域だ。投票所に火器を持ち込むことを禁じる明確な規定もない。

もちろん有権者を脅そうとする行為は、州や連邦の法令違反になる。複数の選挙権確保推進団体は、多数の弁護士をそろえて選挙妨害に対抗し、場合によっては裁判所にそうした行動の中止命令を求める構えだ。

ロイター
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