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コラム:突然の英財務相交代劇、財政規律崩壊への一歩か

2020年02月14日(金)11時58分

 2月13日、英国の財務相交代劇は、財政規律の崩壊につながりかねない。総選挙からわずか約2カ月の同日、ジャビド財務相は突然辞任し、後任にリシ・スナク財務副大臣(写真)が就くことになった。2019年10月、ロンドンで撮影(2020年 ロイター/Henry Nicholls)

Swaha Pattanaik

[ロンドン 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 英国の財務相交代劇は、財政規律の崩壊につながりかねない。総選挙からわずか約2カ月の13日、ジャビド財務相は突然辞任し、後任にリシ・スナク財務副大臣が就くことになった。スナク氏はゴールドマン・サックス出身ではあるが、財務への関心よりも政治本能の方が勝りそうだ。

ジャビド氏は1970年以来、最も在任期間の短い英財務相となる。ロイターが関係筋の話として報じたところでは、今回の辞任はジョンソン首相がジャビド氏に、同氏の顧問らを更迭し首相の側近に交代させるよう要求したことがきっかけだった。少なくとも過去30年間、ここまでぞんざいに扱われた財務相はいなかったはずで、ジョンソン氏の取り巻きへの権力の集中ぶりをうかがわせる。

スナク氏は、経歴は確かに財務相にふさわしい。これまで財務副大臣として公共支出を管轄。政界に入る前はゴールドマンのほか、アクティビスト(物言う投資家)のヘッジファンド、TCIに勤めていた。実業界に人脈もある。義理の父は、インドの富豪でITサービス大手インフォシス共同創業者であるナラヤン・マーシー氏だ。

しかし、そうした事実よりも重視されたのは、スナク氏が与党保守党の方針に従順なことと、ジョンソン氏の考え方をメディアに売り込む能力だ。スナク氏はこの役割を実に器用にこなし、昨年12月の総選挙前の幾つかのテレビ討論会では首相の代打を務める場面さえあった。つまりスナク氏はジャビド氏よりも、首相の言うことをよく聞くかもしれないということだ。

ジャビド氏は保守党の選挙公約に盛り込む財政支出の額を抑え、「当座の支出」を賄うために長期の借り入れは行わないと約束していた。最近フィナンシャル・タイムズ紙が伝えたところでは、来月11日に発表予定の予算案に高所得者への増税を盛り込むことも検討していた。こうした案の一部は、伝統的な保守党支持者層を直撃するが、経済が停滞している地域への支出を拡大する財源となっただろう。

スナク氏は、政治的に不人気な増税で財源を補うことなく、財政支出を増やすことに、ジャビド氏より前向きかもしれない。長年の緊縮財政により、財政赤字の対国内総生産(GDP)比率は2%前後と、2010年の5分の1に縮小している。

しかしジョンソン氏は既に、道路、鉄道その他のインフラに最大で年間200億ポンド(260億ドル)の追加投資を行うと約束している。国債利回りの低さを考えると、これは妥当な計画だ。とはいえ、財務相が財政規律を破り捨てて放漫財政に走れば、国債利回りが上昇して借金のコストが増えることになりかねない。

●背景となるニュース

*ジャビド英財務相は13日、辞任した。関係筋がロイターに語ったところでは、ジョンソン首相はジャビド氏に対し、顧問らを更迭して首相府の顧問らと交代させるよう求めたが、ジャビド氏はこれを拒否した。首相は財務副大臣のスナク氏を後任に指名した。

(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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