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焦点:ロシア外交官追放、トランプ政権が積み上げた強硬姿勢

2018年03月29日(木)16時05分

3月26日、冷戦以降で最多となるロシア外交官60人の国外追放を決めたことで、米政府のロシアに対する姿勢が劇的に強硬化したようにみえるかもしれない。写真は2017年11月、ベトナムのダナンで開かれたAPEC首脳会議に出席したトランプ米大統領(右)とプーチン露大統領(2018年 ロイター/Jorge Silva)

Phil Stewart and Matt Spetalnick

[ワシントン 26日 ロイター] - 冷戦以降で最多となるロシア外交官60人の国外追放を決めたことで、米政府のロシアに対する姿勢が劇的に強硬化したようにみえるかもしれない。だが実際には、より対決的な姿勢を取るための地ならしを数カ月かけて、それも大っぴらに、行っていた。

トランプ大統領によるロシア政府に融和的な発言が、メディアの見出しを飾ることが多かった一方で、米国務省や国防総省、ホワイトハウスの高官はこの1年、アフガニスタンから北朝鮮、シリアに至る世界各地でロシアに対抗するための比較的目立たない決断を重ねてきた。

ロシアが支援するウクライナ東部の分離派に対する防御を高めるため、米国務省は今月に入り、ウクライナ政府に対戦車ミサイルを供与する計画を発表。この措置は、ロシア政府を怒らせることを恐れたオバマ前大統領が踏み切れずにいたものだ。

シリアでは2月、米軍やその支援部隊を攻撃したとして、ロシア政府に関連する民間軍事企業の従業員最大300人を米軍が殺傷した。ホワイトハウスはその一方で、シリア東部グータで起きた民間人への攻撃はロシアの責任だと断じている。

1月公表されたホワイトハウスと国防総省の戦略文書は、いずれもロシアを敵として位置づけ、米安全保障計画の中心として据えている。

これらの措置は、米政府がロシア外交官60人の国外追放処分を発表した26日以前に取られている。今回の追放処分は、英国で神経ガスを使って元ロシア人スパイが攻撃された事件に関与したとして、ロシアに対する報復措置に踏み切った欧州諸国に歩調を合わせるものだ。

ロシア政府は、元スパイ殺害未遂事件への関与を否定している。

ただ、今回の追放処分の発表では、トランプ大統領自身がロシアに対する強硬姿勢を強めているのか、それとも側近や軍人による強硬姿勢を大統領が黙認しているだけなのかは、定かではない。

トランプ大統領は今回の追放措置に「最初から関わっていた」と米政権高官が説明したにもかかわらず、反トランプ派は、大統領がロシアに対して強い姿勢で臨むことに消極的だったとの見方を強調する。

「彼がこれほど決断を渋ったことを深く憂慮する」と、米下院軍事委員会における民主党トップのアダム・シフ議員は語る。

それでも、米政権による今回の行動は、米特別検察官が2016年の米大統領選におけるロシア介入疑惑捜査を進める中、トランプ氏がロシアのプーチン大統領に対する米国の姿勢を和らげたという、大統領自身の発言によっても広く共有されていた見方とは、対極をなすものだ。

だが強硬的な行動にかかわらず、発信するメッセージが一貫性を欠くようでは、ロシア政府の攻撃的行動を抑制しようとする米国政府の戦略が損なわれる恐れもある、と専門家は警告する。

「米国が発するシグナルは、ロシアに対して真剣さが足りないトランプ大統領のせいで損なわれている」。カーネギー国際平和基金のロシア専門家、アンドリュー・ワイス氏はそう指摘する。

トランプ大統領は20日、電話会談でプーチン大統領の再選を祝福し、身内の共和党からも批判を浴びたばかりだ。

だがその2日後、トランプ氏は対ロ強硬派のジョン・ボルトン元国連大使を大統領補佐官(国家安全保障問題担当)に指名。またしても、相反するメッセージを発した。

<下降スパイラル>

米国がロシア外交官を国外追放する直接の引き金となったのは英国での神経剤攻撃だったが、これを単独の事件として捉えるのではなく、不安定化を狙うロシア政府による一連の攻撃的な行動の一端とみなすべきだと、トランプ政権の高官は警鐘を鳴らす。

アフガニスタンでは、反政府武装勢力タリバンの戦闘員に武器を与えていると、駐留米軍トップが先週改めてロシアを批判。

また、北朝鮮問題を巡っては、同国の国連制裁逃れをロシアが支援していると、トランプ大統領自身が1月、ロイターとのインタビューで語っている。

そして今月15日には、米大統領選挙に対する介入やサイバー攻撃に加担したとして、ロシアに対してトランプ政権が初の制裁措置に踏み切ったばかりだ。とはいえ、プーチン氏に近い実業界の大物は制裁対象に加えなかった。

米政府高官や専門家は、少なくとも短期的に米露関係がさらに悪化すると予想。ロシアが次にとる行動は、米外交官に対する報復以上のものになる可能性があると警戒している。

「事態がエスカレートするリスクは、意趣返しの報復措置のみから起きる訳ではない」ワシントンのシンクタンク、ウィルソン・センターのロシア専門家マシュー・ロジャンスキー氏はそう語り、中東やサイバー領域において、より攻撃的な行動が取られる可能性を指摘する。

トランプ政権は、ロシアとの完全な断絶は避ける方針だと、政府高官は話している。ある高官は、北朝鮮やイランなどの難しい外交問題では、いまもロシアの協力が必要だと語った。

(翻訳:山口香子、編集:下郡美紀)

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