ニュース速報

ビジネス

インタビュー:武器輸出進めるなら「日本版FMS」創設を=防衛装備工業会会長

2023年08月10日(木)13時34分

ロイターのインタビューに応じる日本防衛装備工業会の村山滋会長。8月8日、東京の川崎重工業本社で撮影(2023年 ロイター/Tim Kelly)

[東京 10日 ロイター] - 日本防衛装備工業会の村山滋会長はロイターとのインタビューで、武器輸出を本格的に進めるなら与党が協議しているルールの緩和では十分ではなく、米国のFMS(対外有償軍事援助)のような政府主導の制度を創設すべきと語った。弱体化が指摘される防衛産業の支援に政府が乗り出したことを評価しつつ、継続性があるか注視していく考えを示した。

村山氏は川崎重工業の社長、会長を歴任し、現在は同社の特別顧問。今年3月に日本で開かれた防衛装備品の国際展示会(DSEI)に出展した同社の装備品に対し、会場を訪れた参加国の1つから関心が寄せられたという。

村山会長は「紛争当事国には武器を売れないが、ウクライナのようなことをされた国には支援しようという声も出る」と指摘。「われわれでは決められない。外交上、防衛上有利になるからここへ輸出しようという政府の方針がまずあって、その上で初めて(企業が)動ける」とした。   

政府は昨年末にまとめた防衛三文書に武器輸出の三原則を緩和する方針を盛り込み、現在、与党である自民、公明両党が運用指針の見直しを協議している。武器輸出の要件緩和で、輸出可能な武器の対象を拡大するほか、自衛隊向けにほぼ限られていた市場の拡大や他国との安全保障関係の強化などを狙っている。  

    しかし、村山会長は「三原則を外したから売ってこい、というわけにはいかない」と話す。武器輸出は相手国から技術移転や購入資金の支援といった交換条件を求められることもあり、民間企業では対応しきれず、政府が窓口となる米国のFMSのような仕組みを日本も創設する必要があるという。

    FMSは米政府が相手国政府と協議し、武器の引き渡しや訓練支援、第三国への移転管理まで手掛ける制度。「オフセット」と呼ばれる交換条件も政府間でやり取りすることから、企業のリスクや負担は小さくなる。

    川崎重工が手掛ける哨戒機や輸送機の調達に興味を示す国もあるが、実際の商談まで進んだことはないという。フランスが産業振興策を組み合わせて日本を破ったオーストラリアの潜水艦受注合戦にも言及し、「国の方針、国と国の関係で決まる。日本のほうが価格が高かったとか、技術力が足りなかったなどといった以前の問題だ」と語った。

    一方で、FMSを創設するには新たな組織、予算、人員が必要になる。村山会長は「政府内に関係省庁を取りまとめる司令塔的な組織を作って進めることが必要ではないか」と指摘。「海外輸出を、と国が考えるならそれも1つの選択肢だし、今まで通り国内だけでやっていくと考えるのも1つの選択肢」と述べた。

川崎重工で防衛事業に約30年携わってきた村山会長は、6月に国会で成立した防衛装備品生産基盤強化法など政府の一連の施策について、「防衛産業を防衛力そのものと定義している。防衛産業を育成し、持続性を高めなくてはならないという国の方針が初めて出た」と評価した。

同法は財政支援を通じ、防衛省が調達する装備の利益率を高めたり、事業継続が困難となった際に製造ラインの国有化を可能にすることなどが柱。自衛隊に市場が限られる日本の防衛産業は、防衛費の減少や輸入品の増加とともに弱体化が指摘され、採算が合わず撤退する企業も相次いでいた。

政府は2023年度から5年間の防衛費を前回計画の1.6倍となる43兆円に増やすことを決めた。村山会長は予算がついたことを「第一歩だ」と評価する一方、生産増強に必要な設備投資、成長に欠かせない研究開発は長期にわたって費用負担が生じるため、予算や支援に継続性があるかどうか注視していく考えを示した。

村山会長は「収益性、持続性、継続性、成長性。全部一体にならないと産業としては健全にならない」と述べた。

*インタビューは8日に実施しました。

(久保信博、豊田祐基子、Tim Kelly 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、米相互関税発表受け

ビジネス

米国株式市場=相互関税発表後に先物下落、通常取引は

ビジネス

米金利先物市場、FRB利下げ開始6月の見方強まる

ワールド

トランプ米大統領の相互関税、一律10%に 日本への
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台になった遺跡で、映画そっくりの「聖杯」が発掘される
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 7
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 8
    博士課程の奨学金受給者の約4割が留学生、問題は日…
  • 9
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 10
    トランプ政権でついに「内ゲバ」が始まる...シグナル…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 7
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 8
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 9
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 10
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中