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アングル:植田日銀の初会合に市場は反応、海外勢主導で買い戻しか
4月28日、植田和男新総裁(写真)が就任して初めての日銀金融政策決定会合に対し、マーケットは株高・円安・金利低下で大きく反応した。日銀本店で撮影(2023年 ロイター/Issei Kato)
伊賀大記
[東京 28日 ロイター] - 植田和男新総裁が就任して初めての日銀金融政策決定会合に対し、マーケットは株高・円安・金利低下で大きく反応した。政策の現状維持を決めただけでなく、見通しについても大幅な政策修正の可能性低下を示唆したと受け止められたためだ。早期の政策修正を予想していた海外勢を中心に買い戻す動きが強まったとみられている。
<13兆円の円債ショート>
最も大きく反応したのが、円債市場だ。前日比64銭安まで下落していた国債先物は、発表後プラス圏に浮上して同54銭高まで上昇、日中値幅が1円を超えた。新発10年国債利回り(長期金利)は一時0.390%と4月4日以来の水準に低下している。
金利低下を主導したとみられているのが海外勢だ。「国内の市場参加者は現状維持予想が多いが、海外では政策変更予想が根強い」(国内証券)と指摘されており、海外勢を中心としたショートカバーが入った可能性がある。
今回、投機筋による円債売り、いわゆる「日銀アタック」は限定的で、10年債金利は0.480%までしか上昇しなかった。しかし、日本証券業協会のデータでは2022年度の海外投資家の長期債売り越し額は累計で約13兆円。3月に2兆円を買い越したが、依然として大きなショートポジションが残っているとみられている。
円金利の低下で株式市場も揺れた。金融緩和長期化への期待感から日経平均は一時400円超高となり年初来高値を更新した。しかし、不動産株が上昇する一方、銀行株が急落するなど業種別で明暗が分かれる結果となった。円安も進んだが、国内でもインフレ懸念が強まる中、円安は必ずしも日本株のプラス要因とは言えなくなってきている。
<CPI予測とレビュー期間>
今回の日銀会合で、金融政策の大幅修正の可能性が低下したとみられた大きな要因が物価見通しと政策レビューの期間だ。今回初めて2025年度の物価見通しが公表されたが、市場予想を下回る低さとなったほか、政策レビューの期間も1年から1年半と長期になった。
25年度のCPI(消費者物価指数)の上昇率見通し(中央値)がコアで1.6%、生鮮食品・エネルギーを除くコアコアがプラス1.8%。リスクバランスも9人中、3人が下振れ、1人が上振れ、5人が横ばいとなっており、目標の2%を安定的に実現できるとの見通しは少ない。
レビューの期間も長期となった。日銀は今回、1990年代後半以降の金融緩和策を対象に1年から1年半程度かけてレビューを実施することを決めた。決定発表直後の市場からは「レビューを実施している間は、緩和政策のメリット・デメリットの判断もできていないということになり、大幅な政策変更は難しい」(国内証券)との見方が聞かれた。
野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の微修正はあるかもしれないが、YCCそのものやマイナス金利など政策の大枠を変える可能性は低いのではないか」と指摘。今後、円金利が上昇したとしても、上昇余地は大きくないとみる。
<根強い早期修正観測>
ただ、市場も早期の政策修正の可能性を排除しているわけではない。YCCは事前に政策修正をにおわせれば、金利が上昇し、枠組みの維持が難しくなるため、市場には、ある程度サプライズ的な発表にならざるを得ないとの「心構え」もある。
28日発表された4月の東京都区部消費者物価指数(生鮮食品を除く、コアCPI)は前年同月比3.5%の上昇と市場予想の3.2%上昇を上回った。伸び率は3カ月ぶりに拡大。日銀の予想通りに物価が落ち着いていくかは現時点では予断を許さない状況だ。
政策レビューも、その期間は政策変更できないというわけではない。植田総裁は28日の会見で「目先の政策変更に結び付けてやるものではない」、「政策レビューを実施していても、政策変更の必要があれば実行していく」と述べている。
パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は「物価は日銀の想定以上に高止まりしている。この状況下で金融緩和を続けていくことには違和感がある。レビューはレビューだ。6月にも政策変更の可能性はあると引き続きみている」と話す。
足元の景気も現時点では堅調だ。今年後半、世界景気が後退に向かうとすれば、日銀が引き締め方向に政策変更する時間はあまりない。景気・物価情勢を背景に、市場の政策修正観測が再び強まる可能性は残されている。
(編集:久保信博)