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焦点:トランプ氏との攻防はFRBに軍配、口先介入に屈せず
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12月16日、トランプ米大統領はFRBを自分の「仲間」で固めようと画策してきたが、結局、FRBは16日にトランプ政権での最後のFOMCを終え、政治の侵入を瀬戸際で食い止めることに成功した。写真はパウエルFRB議長(右)とムニューシン財務長官、9月に議会上院で代表撮影(2020年 ロイター/Drew Angerer)
[ワシントン 16日 ロイター] - 「間抜け」「情けないやつ」、米国の「敵」――。トランプ米大統領は連邦準備理事会(FRB)の政策決定についてツイッター投稿や実際の発言で再三、こうした口汚い悪口を言い放った。その傍らで、同氏はFRBを自分の「仲間」で固めようと画策してきた。
しかし結局、FRBは16日にトランプ政権での最後の連邦公開市場委員会(FOMC)を終え、政治の侵入を瀬戸際で食い止めることに成功した。疾病対策センター(CDC)や環境保護局(EPA)など他の多くの政府機関が味わった評判のがた落ち、つまり専門家の方針や本来の任務よりも政治が幅をきかせる状況を、FRBは回避できたのだ。
トランプ氏の圧力を受けたのは確かだ。最も顕著だったのは恐らく、FRBが金融規制緩和に動いた点だろう。ただトランプ氏が意図したのは、もっと多くのことだった。
<利上げ、マジか?>
トランプ氏は大統領としてのさまざまな慣例を打ち破ってきたが、ホワイトハウスから独立した立場で金融政策を決定し、予算も自前で賄っているFRBの扱いも、その例外ではなかった。
2017年11月にパウエル氏をFRB議長に任命したトランプ氏はわずか数カ月後、歴代大統領の振る舞いを無視するかのように、FRBに対する自分の要望をあからさまに口にしていく意向を明確にしたのだ。具体的に望んだのはゼロ金利もしくはマイナス金利、積極的な債券買い入れ、株価の高騰で、いずれも米経済が過去最強の状態にあるという自慢を現実に裏打ちしたいという動機だった。
トランプ氏は18年7月20日にはツイッターに「債務の期限が到来し、われわれは金利を引き上げている。マジか」と投稿する。この頃から、同氏の金融政策やFRB首脳に対する批判は日常的に目につくようになった。
これらの批判の一部は、FRB側の動揺を誘った。とりわけ驚いたのは、トランプ氏がパウエル氏を中国の習近平国家主席になぞらえて「私のたった1つの疑問はジェイ・パウエルと習近平主席のどちらがわれわれにとってより大きな敵かだ」と問いかけた時だっただろう。
それでも、FRBは17年から18年にかけて粛々と利上げを継続した。トランプ氏がパウエル氏の「降格」や更迭を公然とにおわせたにもかかわらず、である。経済の強さや失業率の低さから、利上げが適切と判断したからだ。
<自らブレーキ>
パウエル議長の下で18年に行った4回を含め、一連の利上げは実質的には経済を加速させたトランプ氏の実績への「賛辞」という面があった。
新型コロナウイルスのパンデミックに苦しむ今になって思い起こすのは難しいかもしれないが、トランプ氏の任期前半の2年間は、減税と、予想を上回る財政赤字を生み出す積極的な財政支出を通じて、FRBが想定した以上に米経済成長が加速し、「トランプ景気」を謳歌していた。この利上げを巡っては今もなお、政策担当者やアナリストの間で激しい論争が続いてはいるが、成長がさらに高まる可能性がある経済にFRBが対応する手段だったということは言える。
その後はトランプ氏がさまざまな政策を打ち出すにつれて、米景気の勢いには陰りが生じた。トランプ政権が貿易戦争を激化させると、それまでの利上げの影響と相まって、経済成長は18年終盤に鈍化。19年初頭になって、パウエル氏が引き締め政策から景気回復を支える方向へと、鮮やかに軌道修正したのはよく知られている。つまりトランプ氏は最終的に、自分が要求した利下げを手に入れた。ただ、その一因は自分が世界の貿易活動を邪魔するような措置を講じたからだというのは、この上ない皮肉だ。
<玄関口で阻止>
とはいえワシントンの政治がFRBを幾つかの面で居心地の悪い立場に追いやってしまったのは間違いない。
例えば財務省は最近、FRBが反対したにもかかわらず複数のパンデミック対策の緊急融資プログラムを打ち切るよう命じた。ジョージ・ワシントン大学の政治学教授でFRBの歴史を研究しているサラ・バインダー氏は、中央銀行が政治の世界の奥深くに引きずり込まれている構図が示されたと指摘する。
バインダー氏は「FRBは、党派色が強く足の引っ張り合いも激しい、危険に満ちた政治環境のまさに渦中に置かれている。政治から無縁でいるのは困難だ」と話した。財務省のパンデミック緊急融資打ち切り決定は11月3日の大統領選の直後で、バイデン次期大統領の政権移行チームは決定に対し、数百万人の国民がなお失業状態にある中で「大変無責任」な措置だと批判した。
ただバインダー氏は「党派主義がFRBの玄関口までは広がってきたものの、それほどは浸透していない。少なくとも露骨な法令などの形ではそれほど及んでいない」と強調した。
トランプ氏とFRBの関係で恐らく最も奇妙なのは、同氏があれほどFRBを嫌いながら、主要幹部を自ら指名してきたことだろう。トランプ政権の間に、FRBの正副議長を入れた5つの理事ポストについて、パウエル氏を含めて4人がトランプ氏に起用されている。
もっともトランプ氏が意中の判事候補を指名した連邦最高裁が結局、同氏の期待に沿う行動をしていないように、FRBも決して「トランプ色」には染まっていない。パウエル氏とクラリダ、クオールズ両副議長の3人はウォール街の経験が豊富な人物という基準で選ばれた。それはムニューシン財務長官やコーン元国家経済会議委員長も同じだ。
当初こそはトランプ氏が、人事で市場の信頼感維持と金融規制緩和を重視したためで、金融規制緩和の進展は同氏がFRBから得た最も明確な「得点」と言える。
ところが18年終盤から19年にかけて、トランプ氏のFRBに対する怒りが頂点に達したころになると、人事方針は一変。ピザチェーン経営者だった故ハーマン・ケイン氏や、16年の大統領選でトランプ陣営の経済顧問を務めたジュディ・シェルトン氏ら、極めて党派的な人物をFRB理事候補に検討するようになった。
こうした人々が理事に就任していれば、FRBの高い評判と独立性が侵害された恐れがあるのは確かだ。しかし幸いにもこうした人事案は指名に至らないか、あるいは議会の承認採決に向けた動議が否決された。
トランプ氏が再選を果たしたなら、FRBの次期議長を選ぶ権利を手にしていた。しかし、パウエル氏の任期が切れる22年2月に向けて、同人事を決定するのはバイデン氏の仕事になる。
(Howard Schneider記者)