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焦点:ファーストリテ実質浮動株2%、「品薄株」がNT倍率拡大

7月19日、日経平均をTOPIXで割ったNT倍率が19年ぶりの高水準となっている。「値がさ株」が上昇する一方、時価総額の大きい銀行株などが伸び悩んでいるためだ。写真は都内の株価ボード前の通行人。2007年7月撮影(2018年 ロイター/Toru Hanai)
[東京 19日 ロイター] - 日経平均<.N225>をTOPIX<.TOPIX>で割ったNT倍率<.NTIDX>が19年ぶりの高水準となっている。「値がさ株」が上昇する一方、時価総額の大きい銀行株などが伸び悩んでいるためだ。
ただ、ファーストリテイリング<9983.T>の実質浮動株が2%台に低下するなど、日銀によるETF(上場投資信託)買いによって「品薄株」が発生。こうした市場の歪みが影響している可能性もあると指摘されている。
<値がさ株の代表格>
加重平均型の指数である日経平均は、株価が高い「値がさ株」の影響を受けやすい。足元でNT倍率が上昇している大きな要因は、この値がさ株の上昇だ。
代表格はファーストリテイリング。18日の終値で5万3880円と、2015年8月以来、2年11カ月ぶりの高値圏で推移している。同社株が1%上昇すれば日経平均を約20円押し上げることになる。
NT倍率は7月13日に13.06倍まで上昇し、98年12月以来、19年7カ月ぶりの高水準を付けた。ファーストリテはこの日、決算発表を手掛かりに6.95%高と急伸。日経平均の上昇幅409円のうち、129円を1銘柄で押し上げた。
同社の17年9月─18年5月期連結営業利益は、前年比32%増。確かに好業績ではあるが、予想PER(株価収益率)も42倍と日経平均の13倍を大きく超える。
割高感が意識されながらも株価は上昇。15年7月の上場来高値6万1970円も視界に入ってきた。勢いづく株価の要因として指摘されているのが、日銀のETF買い効果に伴う需給面での妙味だ。
<日銀ETF買いで浮動株減少>
発行株のうち、安定株主の保有分などを除き、市場で流通する可能性の高い株を浮動株と呼ぶ。
ETFに組み込まれた株に関しては、通常は浮動株とみなすが、日銀が買い入れたETFは市場で売却しない限り、日銀が抱えることとなる。「出口戦略」の道筋さえ見えない中では、組み入れられた銘柄が市場に放出されるリスクは低い。
ニッセイ基礎研究所・チーフ株式ストラテジストの井出真吾氏は、日銀の間接保有分を固定株とみなし「実質浮動株比率」を算出。ファーストリテは6月末時点で2.2%。昨年10月末の9%からさらに低下した。
アドバンテスト<6857.T>の25.1%や、ユニー・ファミリーマートホールディングス<8028.T>の24.1%も低いが、ファーストリテの浮動株の少なさは際立つ。
浮動株が少ない「品薄株」は、需給面から上昇しやすいとみられている。日銀のETF買いで実質浮動株が少なくなったファーストリテが上昇することで、日経平均を押し上げ、NT倍率の拡大につながっている可能性がある。
「ファーストリテなどの品薄株が上昇すれば、さらにNT倍率が拡大することになりかねない。市場の歪みもさらに広がるだろう」と、井出氏は指摘する。
<空売り難しい「品薄株」>
浮動株が少ない株は、売りにくくもなる。空売りが難しくなるためだ。
信用取引で空売りをする場合、株を借りてくる必要がある。株を借りる際に支払うのが「逆日歩」と呼ばれるコストだ。
日本証券金融が公表する18日時点の品貸料率(逆日歩)データによると、ファーストリテの場合、100株を信用売りした場合、1日あたり55円を支払う必要がある。
ちばぎん証券顧問の安藤富士男氏は、ファーストリテの場合、生損保や信託銀行など機関投資家が貸せる株数は多くはないと指摘。浮動株の減少は「業績が良かろうが悪かろうが、株価的にはプラス」と話す。
2016年9月に日銀は、ETF購入方法を見直した。TOPIX連動型ETFを増やすことで、日経平均連動型ETFへの偏重を修正した。
ただ、それでも「日銀が日経平均型とTOPIX型の両方を購入し続けている以上、日経平均構成銘柄には(二重に買われる)『ダブルギアリング効果』が生じる。結果的にパフォーマンスも優位となりやすい」(東海東京調査センターのマーケットアナリスト、仙石誠氏)という。
こうした点について、日銀のコメントは得られていない。
<バブル相場の一因に>
日経平均構成銘柄の「品薄株」を巡る思惑は、今に始まったことではない。
1988年9月に日経平均先物の取引が始まると、外資系証券とみられる「現物バスケット買い・株価指数先物売り」の裁定取引のポジションが組成されるようになった。これを機に、日経平均を構成する品薄株に資金が流入し、現物株の指数が上昇。バブル相場を生み出す要因となったとの指摘も多い。
アイザワ証券・日本株ストラテジストの清水三津雄氏は「裁定業者は構成銘柄全般を買っていたが、市場参加者の一部には品薄株を狙って買いに行くような動きもあった」と、当時を振り返る。
30年後の今、現物株の手口が公表されない株式市場では、品薄株を買い、相場を吊り上げる投資家の存在を明確な証拠を持って裏付けることは難しい。
ただ、市場では「指数ばかり上昇しているのに儲かっていない個人投資家が多いという点では、今も似ている」(国内証券)と、ため息まじりの声も聞かれている。
*見出しを修正しました。
(長田善行 編集:伊賀大記)