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訂正:NAFTA再交渉、米要求は協議阻害する「ポイズンピル」
5月29日、トランプ米大統領は北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を年内に決着させる約束をしているが、期限が迫っていることが分かった。関係者によると、米政権自体がこの危機的状態を作り出した部分が大きいという。ッ写真は5月5日、メキシコ市で(2018年 ロイター/Edgard Garrido)
[ワシントン 29日 ロイター] - トランプ米大統領は北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉を年内に決着させる約束をしているが、期限が迫っている。関係者によると、米政権自体がこの危機的状態を作り出した部分が大きいという。
交渉担当者、業界ロビイスト、貿易専門家や議員らは、米国側が提案を示すまでに貴重な時間を何カ月無駄にしたか、どのように協議が行き詰まったのかを説明した。米国側の要求はカナダとメキシコの想定をはるかに上回っており、米政府が妥協の用意は全くないことを示唆しているためだ。
異例の過密スケジュールが設定された結果、自動車部品の域内調達比率といった重要課題における隔たりを調整するための余地は、ほとんどなくなってしまった。
再交渉は2017年8月、わずか4カ月で決着させるという目標に向けてスタートしたが、今年5月17日時点で、現行の米連邦議会が年末までに新しい合意について承認するための通知期限は過ぎた。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表はその日、再交渉について「合意から程遠い」との認識を示している。[nL3N1SP01T]
<時間的制約>
メキシコの関係筋によると、ライトハイザー氏は数週間前まで、7月1日のメキシコ大統領選までに交渉をまとめるという最大の時間的制約にさらされていた。
だが5月上旬、同国のグアハルド経済相はライトハイザー氏に対し、選挙後に新政権が誕生する12月1日まで交渉を継続できるとの見方を提示。メキシコの関係筋によると、米国側の方が突然、迫り来る連邦議会の期限に直面することになった。
2017年7月に議会へ提出されたトランプ政権の交渉目標は、メキシコおよびカナダに対する貿易赤字の縮小と、国内の自動車生産の拡大だった。メキシコとカナダはこれとは対照的に、「近代化」の実行や、NAFTAが発効した1994年には存在しなかったデジタル取引に関する条項の提案などを視野に入れていた。
メキシコとカナダは概して、現状に満足していた。そのため、米国が特定の要求を示すのに2カ月を要した際、遅れは思うつぼだった。
「協定の更新について話し合いを開始しておいて、要求内容を説明するのに皆を数カ月も待たせるなどということがなぜできるのか」とカナダの政府高官は疑問を呈した。
ライトハイザー氏の事務所は、同氏がNAFTAに基づく貿易が米国に有利になるよう「リバランス」することが目的だと説明した。
同氏のチームが昨年10月に要求を説明した際、カナダとメキシコの政府高官らは、何十年もの間享受してきた貿易上の恩恵を放棄することになるとして、受け入れられないと突っぱねた。
米国の経済団体はこれらの要求について、交渉の進展を妨げトランプ大統領に協定脱退を促す恐れのある「ポイズンピル(毒薬条項)」であるとのレッテルを貼った。鍵となる要求は、自動車部品の米国における調達比率の大幅引き上げ、5年ごとに協定の内容を見直すことなどだ。
ワシントンで4―5月にかけて約8週間にわたる協議が続けられ、主に自動車問題が取り上げられたが、これらの問題は全く解決していない。
時間のロスにはカナダとメキシコにも一因がある。両国政府は3カ月かけて、反対提案を作成。ライトハイザー氏は両国が「関与」していないと批判した。
両国の交渉担当者は、米国の要求には裏付けとなる慣例法や分析がないため、その論理を理解するには時間がかかると主張した。米国の交渉団は、非常に厳しいスケジュールが原因だと述べた。
だが関係筋によると、米国の首席交渉官を務めるジョン・メレ氏は非公式に、カナダ政府が女性や先住民族の権利に関する条項など優先順位の低い問題についての協議で、時間をわざと無駄にしたとの不満を口にしたという。カナダ政府はこれを否定している。
同国の主席交渉官であるスティーブ・フェルヘール氏は今年前半のビジネスイベントで「米国はカナダとメキシコを弱体化させることで、自国を強化しようとしている」と批判した。
<どちらのライトハイザー?>
トランプ大統領のNAFTA脱退や、米政権の強硬姿勢により、交渉団の一部は再交渉の目的は、協定を失敗させることなのか、改善することなのかと疑問に思うようになった。
ある交渉担当者はロイターに対し「私の上司は、ライトハイザー氏が合意を望んでいる確率が4割、望んでいない確率が6割だと考えている。時々、同じ会話の中で2人のライトハイザー氏が顔を見せることがある」と語った。
同氏はよく、記者団や議員に対し「ただ1人のために」交渉を進めていると述べている。取引を受け入れるも拒否するも、最終的にはトランプ大統領にかかっている。
米国の交渉団は4月上旬、態度を軟化。自動車部品の域内調達比率を10%ポイント引き下げ、75%にすることを提案し、交渉の進展具合はやや勢いを取り戻したように見えた。だが他方で、製造作業について、乗用車および小型車は価格の40%に当たる作業に時給16ドルの賃金を支払うことを条件とした。
メキシコはこれに対し、それぞれ70%、20%を提案。同国のグアハルド経済相は25日、再交渉が7月1日の統領選までに妥結する可能性は約40%との見方を示した。[nL3N1SW51R]
ただ、米政府は他国とも貿易を巡って対立しており、この勢いを維持するのは難しくなっている。
たとえば、米国は知的財産を巡り中国製品への関税をちらつかせており、この協議は4月後半に重要な段階まで達した。この間、ライトハイザー氏は1週間、NAFTA再交渉から離れざるを得なかった。
米商務省(訂正)は前週、国家安全保障に関する調査を開始し、北米、欧州やアジアからの自動車や自動車部品の輸入に制限を設けることを示唆した。カナダのトルドー首相は24日、ロイターに対し、この動きは同国とメキシコに対する圧力を意図したものだとの見方を示した。
だがこうした圧力が功を奏すかは別の問題であり、その一方でライトハイザー氏をさらに忙しくしかねない。
ウェンディ・カトラー前USTR次席代表代行は、自動車問題以外にも製薬会社の知的財産の保護など、解決に時間を要する問題があると指摘。「創造的な解決策を見つけ出すには時間が足りないことがある」と述べた。
(David Lawder記者、David Ljunggren記者 翻訳:田頭淳子)
*第25段落の国家安全保障に関する調査を開始したのが「同氏(ライトハイザーUSTR代表)の事務所」でなく「米商務省」であることを明確にして再送します。