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焦点:小売り決算「付加価値」で明暗、増税後の消費は質重視に

2015年04月10日(金)18時43分

 4月10日、昨年4月に5%から8%に消費税率が引き上げられて以降、小売りの最前線では「消費の質」を重視する動きが広がり、その戦略の成否が企業決算の明暗を分けている。都内のユニクロで9日撮影(2015年 ロイター/THOMAS PETER)

[東京 10日 ロイター] - 昨年4月に5%から8%に消費税率が引き上げられて以降、小売りの最前線では「消費の質」を重視する動きが広がり、その戦略の成否が企業決算の明暗を分けている。

勝ち組であるファーストリテイリング <9983.T>やニトリホールディングス <9843.T>、セブン&アイ・ホールディングス <3382.T>などは付加価値を高めて値上げを実現、好決算を達成した。「量より質」を求める消費者ニーズに対応する巧拙が、業界の二極分化を引き起こしている。

    <客数減っても客単価は上昇>   

小売り各社の2015年2月期は、個人消費を取り巻く環境の悪化、収益確保へ厳しい対応を迫られる一年となった。消費増税、高いガソリン価格、円安による輸入物価上昇など、消費拡大には多くの逆風が吹く環境となったが、その中でもしっかりと収益を伸ばした企業は少なくない。   

その筆頭となったセブン&アイHD。4期連続で営業最高益を更新する好決算を発表。消費増税に合わせ、プライベートブランド(PB)のセブンプレミアムの大半で質を高めるリニューアルや新商品への切り替えを実施したことなどが奏功した。

「日本の消費は成熟してきており、価格志向の商品を提供していると、なかなか消費増税をクリアできる状態ではない。しかし、新しい価値や質を上げ、価格を上げることができれば、トータルで消費増税分はクリアできる」と村田紀敏社長は話す。       

1997年に消費税が3%から5%に引き上げられた際は、イトーヨーカ堂は「消費増税分5%の還元セール」を実施、他社も追随した。昨年4月の8%への増税時には、政府が価格転嫁の監視を徹底すると同時に、値下げ競争を誘発しかねない還元セール禁止などの措置を講じた。

昨年の消費増税の影響の違いについて、業界関係者は7年前に比べて消費者のし好が大きく変化していると語る。97年の増税時に消費者が重視したのは「価格水準」。それに対し、現在は「量より質」の消費に変わっており、質の良い商品を少量という節約方法が目立っている、という。

パルコ <8251.T>の牧山浩三社長は、現状の消費について「都市成熟型で、より生活を快適にするために、少し良いもの、長く使いたいものが売れている」と分析する。

こうした消費者の変化を裏付けるかのように、15年2月期に好調な決算を発表した企業は軒並み、客単価が上昇している。ニトリHDは客数2.0%減に対して客単価は3.6%上昇、エービーシー・マート <2670.T>も客数0.1%減に対して客単価は5.8%上がった。ニトリHDは28期連続増収増益、ABCマートは12期連続の最高益更新だった。   

    <単なる値上げは通用せず>   

ファミリーマート <8028.T>の中山勇社長は、今年度の消費について「前期よりも確実に環境は良い。その分は消費に回ってくる」と期待感を示す。消費再増税の先送りに加え、為替円安進行が一服して120円付近で落ち着いていること、ガソリン価格の下落など、消費者が先行きのコスト高を意識する状況にはなく、環境は良くなっている。また、賃上げの実施や夏のボーナス増の見通しもプラス要因となる。   

エコノミストからも「雇用も含めた実質所得は4月以降に前年比2%台の伸びに達する見込みだ。14年度の1%減に比べ大幅な改善となる。個人消費の回復が予想される」(SMBC日興証券)との指摘が多く出ている。  

ただ、足元では乳製品、ケチャップ、コーヒー、食用油など、生活必需品の値上げが相次いでおり、消費者の選別の厳しい眼は続くことが予想される。値上げしても、価値が見合っていないと判断されれば、消費者の選択から外れる。

前期に好調な決算を残した企業も、こうした価格引き上げが継続できるかどうかは不透明だ。クレディスイス証券では、ニトリHDについて「過去2―3年の販売好調を支えた客単価上昇が一巡しつつある」という点を懸念材料として挙げる。   

昨年秋冬は値上げが成功したファーストリテは9日、今秋冬も約2割の商品で値上げすると発表した。原材料価格高や円安による輸入コスト増などが影響している。ただ、同社幹部は「価値を上げずに価格を上げることはない」と強調しており、価値向上にも取り組む方針。   

一方、前期決算で7兆円を超える営業収益となりながら、営業利益が17.5%の下落となったイオン <8267.T>については「増税後はプライシングに試行錯誤した」(アナリスト)との見方がある。

同社の総合スーパー(GMS)改革を担当する岡崎双一執行役は9日、「目の前の売上げを取ることを目的にして乱発していた過度な値引き制度を原則中止する」と述べた。価格を重視してきた方針からの転換とも受け取れる発言だが、変化する消費者のし好をどう的確に取り込んでいくか、今期も価格政策は難しい課題となりそうだ。

   

(清水律子 編集:北松克朗)

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