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インタビュー:物価の基調不変なら追加緩和は不要=中曽日銀副総裁

2015年04月10日(金)17時21分

 4月10日、日銀の中曽宏副総裁は、ロイターとのインタビューで、今後、コアCPIの見通しが下振れても物価の基調が変化しない限り、「追加緩和は不要」との認識を示した。インタビューが行われた9日、日銀本店で撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 10日 ロイター] - 日銀の中曽宏副総裁はロイターとのインタビューに応じ、今後、消費者物価(生鮮食品除く、コアCPI)の見通しが下振れても需給ギャップやインフレ期待など物価の基調が変化しない限り、「追加緩和は不要」との認識を示した。

日本経済は企業や家計の前向きな行動の変化が生じており、デフレマインドは「払しょくされつつある」と表明。量的・質的金融緩和(QQE)に伴う大規模な国債買い入れを今後も続けていくことは「十分に可能」と語った。インタビューは9日に行った。

<デフレ心理「払しょくされつつある」、リスクは海外動向>

日銀が2年程度で2%の物価目標を達成すると宣言し、2013年4月にQQEを導入してから2年が経過したが、足元のコアCPI上昇率は消費税率引き上げの影響を除くベースで前年比ゼロ%まで伸び率が縮小している。

中曽副総裁は物価動向について「(2%の)物価安定目標との隔たりが残っている」ことを認めながら、鈍化の原因は原油価格など「エネルギー価格の下落」によるものと説明。日銀が重視している需給ギャップやインフレ期待などを反映した「物価の基調」は「着実に改善している」と語った。

そのうえで、日本経済は「企業、家計部門とも所得から支出への前向きな循環メカニズムが作用し、景気は緩やかに回復している」とし、QQEの効果もあって企業や家計の「前向きな行動の変化が起きている」と強調した。

具体的には企業の賃金設定において、今年の春季労使交渉(春闘)で昨年を上回る水準のベースアップ(ベア)が実現する見通しなど「賃金の上昇傾向が続いており、企業の予想物価上昇率の上昇を示唆しているものとして非常に心強い」と歓迎。賃上げの内容も「中小企業や非正規労働者に広がっており、雇用・所得環境の質的改善を示すもの」と評価した。

企業や家計のデフレマインドは「払しょくされつつある」と表明。「この点は隔世の感がある」とし、日本経済はデフレ脱却へ着実に前進しているとの認識を示した。

日本経済の好循環が「中断する」リスクについて、「海外動向により目を向けていく必要がある」と言及。特に、深刻な債務問題に直面しているギリシャが「仮にユーロ圏から離脱するようなことになれば、国際金融資本市場の混乱などを通じて日本の市場、経済にも影響があり得る」とし、ギリシャ問題の行方に注視が必要とした。

<2年程度の目標期限は変えない、政策効果の起点>

物価2%達成に向けた道筋は、原油価格が日銀の想定通り先行き緩やかに上昇していくことを前提にすれば、コアCPIの前年比は「原油価格下落の影響がはく落するにつれて伸び率を高め、2015年度を中心とする期間に2%に達する」と展望。もっとも、原油価格の動向によっては達成時期が「多少前後する可能性はある」との見方を示した。

日銀がQQE導入当初に約束した2年程度を念頭とした目標達成期限についても「(期限の)コミットメントは政策効果の起点であり、この方針を変える考えはない」と強調した。2年程度での目標達成が困難になれば追加緩和を迫られることになるが、仮にコアCPIの見通しが下振れても「物価の基調的な動きに変化が生じない限り、追加緩和は不要」と断言。一方で、物価の基調に変化が生じた場合は「物価安定目標の早期実現に必要となれば、ちゅうちょなく調整を行う」とも語った。

QQEからの出口政策については、物価目標実現の途上にある中で「早い段階から具体的なイメージを持って話すことは適当ではない。市場との対話の観点からも、かえって混乱を招く」とし、議論は時期尚早と指摘。そのうえで、日銀は超過準備への付利や、資金吸収手段として国債売り現先、手形売出という「実用可能な手段を有している」と述べ、出口に対応することは「十分に可能だ」と自信を示した。

<大規模な国債買入継続「十分可能」、市場の流動性維持は重要>

QQEに伴って長期国債の保有残高を年間80兆円増加させる大規模な国債買い入れを日銀が続ける中、国債市場では市場機能や流動性への懸念が一段と強まっている。

中曽副総裁はQQE導入が国債市場の需給や価格形成に影響を与えることは「当初から不可避と思っていた」としたが、これまでのところは「国債市場の機能度、流動性が通常取引が困難になるほど著しく低下しているわけでない」との見方を示した。

一方で「私自身は流動性の維持がとても重要であることを十分に認識している」と強調し、これまで以上に市場参加者と密接な意見交換に努めるとともに、「新しい分析手法なども活用しながら、市場の流動性や機能度について包括的、丁寧にフォローしていきたい」と語った。

市場では現行の大規模な国債買い入れの持続性を疑問視する声も多いが、中曽副総裁は、今後も買い入れを続けていくことは「十分に可能」と明言。さらなる国債の買い入れに関しても「今後も買い入れに支障をきたすような特段の事情があるとは考えていない」と述べ、追加緩和を行う場合の増額余地もにじませた。

さらに、今後も国債買い入れを続けていく中で、「従来は安定的・固定的な投資家とみられていた主体が保有する国債まで掘り起こして買っていくことになる」と指摘。「こうした投資家は、より高い価格でなければ日銀に国債を売却しないかもしれない」と述べ、「その場合は、オペレーションを通じてイールドカーブの低下圧力や、ポートフォリオ・リバランスを促す効果が強まる」と、さらなる金利低下の可能性に言及した。

<マイナス金利は緩和効果の一形態、金融機関収益の厳しさ「十分認識」>

また、金利低下によって短期国債市場などで異例のマイナス金利が発生しているが、「マイナス金利は金融緩和効果の一形態であり、借入コストの低下やポートフォリオ・リバランスの促進という意図するメカニズムに沿ったもの」と政策効果を主張。現段階では「マイナス金利が市場取引のインセンティブを大きく阻害したり、金融サービスの提供に持続的な負の影響が生じているとは考えていない」と語った。

超低金利環境の長期化が貸出金利ザヤの縮小などを通じ、地域金融機関を中心とした金融機関の基礎的な収益力の低下をもたらしている。

中曽副総裁は、QQE推進に伴う金利の低下によって「地域金融機関の収益環境が非常に厳しい状態に置かれていることは十分に認識している」とする一方、QQEの効果によって経済の好循環が強まれば「貸出の増加や資金利益の改善などの効果が生じ、金融機関の収益向上にもつながっていく」と期待感を示した。

一方、大規模な金融緩和を続ける中でも「現時点で資産市場や金融機関行動において、過度な期待の強気化は観察されていない」と、金融面の不均衡は生じていないとの認識を語った。

(伊藤純夫 木原麗花)

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