ニュース速報

ビジネス

焦点:米為替報告書、日本財政「緊縮的」緩和依存高いと批判 

2015年04月10日(金)13時28分

米財務省が9日公表した為替報告書は、日銀の金融緩和への依存度が高過ぎると指摘しているほか、成長戦略の実現性についても疑問を投げかけており、全般的にアベノミクスへの批判的なトーンが目立っている。写真は国連70周年のシンポジウムに出席した安倍首相。3月16日、都内で撮影(2015年 ロイター/Toru Hanai)

[東京 10日 ロイター] - 米財務省が9日公表した為替報告書は、日銀の金融緩和への依存度が高過ぎるとし、財政についても2015年度予算が前年比ベースで緊縮的であると指摘した。

成長戦略の実現性についても疑問を投げかけており、全般的にアベノミクスへの批判的なトーンが目立っている。米国からの「注文」は、日本政府の経済・財政運営にも影響を及ぼす可能性がある。

半期ごとに公表される為替報告書では、各国のマクロ経済運営に対する米政府の見解が示される。今回はドル独歩高が米企業業績の下押し要因にもなりつつあるなかで、ドル高と各国通貨安に対する記述が目立っている。

日本については、財政再建の行き過ぎや金融政策への過度な依存を避けるよう警告。「為替誘導を目的とした外国資産の購入は行っていない」と介入を行っていない事実を記載。日銀の量的・質的緩和(QQE)の結果として大幅な円安が進行した事実に言及した。この点が、市場関係者の一部で「現状程度の円安容認」と受け止められた。

ただ、ドル/円が102円付近で推移していた2014年7月に国際通貨基金(IMF)が「日本経済の中期的な基礎的条件と概ね整合的」と論評した経緯に触れた。この点を市場がえん曲な「円安けん制」と受け止めるのかどうか、今後の動向が注目される。

また、米有力シンクタンクが年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による外国株・債券購入拡大を「為替操作」と批判していたが、今回の為替報告書では、何ら言及はなかった。

成長戦略については、農協改革を評価しつつ「政治的にセンシティブな分野で野心的な改革を遂行できるか疑問」と指摘。環太平洋連携協定(TPP)による農業や医療分野の改革が、日本経済の成長にプラスになるとの見方を示した。

今後、日米間での議論だけでなく、政府のマクロ経済政策のスタンスにも影響を与える可能性が出てきたのが、財政をめぐる米側の「注文」だ。

2015年度予算で公共投資などの政府支出が、前年度比で減少した点を「緊縮的」と表現した。

さらに「物価上昇が、緩やかな名目賃金上昇を相殺している」とし、「新たな政府支出の不在」や前年度補正予算の反動などから「15年度(訂正)財政は顕著に緊縮的」と論評。「日本の景気回復の持続性や内需の強さには、依然疑問が残る」と、財政支出のあり方に疑問符を投げかけた。

安倍晋三首相は、消費税率10%への引き上げを2017年4月に延期したが「財政は引き続き緊縮的」であるとし、日本政府は「中長期的に債務を制御する信頼に足る計画が必要」と述べつつ、「急速な財政健全化を早期に強調しすぎると、日本の景気回復や改革に水を差す」と懸念した。

政府内では今夏に策定する中期財政計画をめぐり、従来から掲げる2020年度の基礎的財政収支(PB)黒字化と並列する形で、債務の対国内総生産(GDP)比改善や、政府保有資産を差し引いたネットベースでの債務も目標として採用すべきとの声が出ている。

米国が日本の財政政策のスタンスを「緊縮的」とした波紋が、国内における政策判断にどのように影響するのか。首相官邸と財務省などで、財政再建ペースに関し、温度差があるとみられているだけに、政府内の議論に影響を与える可能性もある。

*見出しを修正しました。

*本文中で「14年度財政」とした部分を「15年度財政」に訂正します。

(竹本能文 編集:田巻一彦)

ロイター
Copyright (C) 2015 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

トランプ氏、暗号資産の新事業立ち上げ発表 詳細説明

ワールド

訂正-ギリシャ、住宅難で短期賃貸許可を1年停止 オ

ビジネス

午前のドルは上昇後反落、米小売売上高で利上げ幅見極

ワールド

薬剤耐性菌による死者数、今後25年間で世界3900
MAGAZINE
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
特集:ニュースが分かる ユダヤ超入門
2024年9月17日/2024年9月24日号(9/10発売)

ユダヤ人とは何なのか? なぜ世界に離散したのか? 優秀な人材を輩出した理由は? ユダヤを知れば世界が分かる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優雅でドラマチックな瞬間に注目
  • 2
    エリザベス女王とフィリップ殿下の銅像が完成...「誰だこれは」「撤去しろ」と批判殺到してしまう
  • 3
    地震の恩恵? 「地震が金塊を作っているかもしれない」との研究が話題に...その仕組みとは?
  • 4
    ウィリアムとヘンリーの間に「信頼はない」...近い将…
  • 5
    バルト三国で、急速に強まるロシアの「侵攻」への警…
  • 6
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 7
    原作の「改変」が見事に成功したドラマ『SHOGUN 将軍…
  • 8
    広報戦略ミス?...霞んでしまったメーガン妃とヘンリ…
  • 9
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座…
  • 10
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは...」と飼い主...住宅から巨大ニシキヘビ押収 驚愕のその姿とは?
  • 3
    【クイズ】自殺率が最も高い国は?
  • 4
    アメリカの住宅がどんどん小さくなる謎
  • 5
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 6
    キャサリン妃とメーガン妃の「ケープ」対決...最も優…
  • 7
    ロシア空軍が誇るSu-30M戦闘機、黒海上空でウクライ…
  • 8
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 9
    キャサリン妃、化学療法終了も「まだ完全復帰はない…
  • 10
    33店舗が閉店、100店舗を割るヨーカドーの真相...い…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    エリート会社員が1600万で買ったマレーシアのマンションは、10年後どうなった?「海外不動産」投資のリアル事情
  • 3
    電子レンジは「バクテリアの温床」...どう掃除すればいいのか?【最新研究】
  • 4
    年収分布で分かる「自分の年収は高いのか、低いのか」
  • 5
    「棺桶みたい...」客室乗務員がフライト中に眠る「秘…
  • 6
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレ…
  • 7
    森ごと焼き尽くす...ウクライナの「火炎放射ドローン…
  • 8
    ウクライナ軍のクルスク侵攻はロシアの罠か
  • 9
    「あの頃の思い出が詰まっている...」懐かしのマクド…
  • 10
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中