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インタビュー:物価目標達成、時期に固執すれば副作用=篠原元財務官

2015年03月19日(木)11時23分

 3月18日、篠原尚之元財務官がロイターのインタビューに応じた。写真はコロンボで2013年11月撮影(2015年 ロイター/Dinuka Liyanawatte)

[東京 19日 ロイター] - 篠原尚之・前国際通貨基金(IMF)副専務理事(元財務官)は18日、ロイターのインタビューに応じ、日銀が掲げる物価目標2%の達成時期について、2017年以降に後ずれし、当分の間難しいと見通した。目標達成時期に固執すれば副作用が大きく、現時点で追加緩和の必要はないとの認識を示した。

<現時点で追加緩和の必要ない>

質的・量的金融緩和(QQE)の政策効果について、篠原氏は「一定の成果はあったが道半ば」と指摘。「資産価格効果を通じて企業収益は好転、消費にも一定の効果があった」とする一方、実質金利低下を通じた設備投資への波及効果が、期待ほどではなかったとした。

そのうえで金融政策スタンスについて、2%の物価目標は尊重するが「期限にこだわる必要はない」と指摘。「2%が遠ざかったから、金融政策で2%にもっていくのは乱暴な議論だ」と述べ、物価目標の2%はあくまでも「中長期的に目指すべき目標で、弾力的に考えた方がよい」と語った。「一定の期限を設けて何でもやるとすれば、副作用の方が大きくなる」とも語り、期待インフレ率は上がってきており「それを追求していくことだ」と述べた。

2%の目標達成時期では「2017年より後ずれし、当分の間難しい」と見通した。

追加緩和を行うとすれば、実体経済が予想以上に下振れた時だと強調。手法については、買い入れ対象資産を拡大し、地方債や社債なども選択肢として考えたほうが良いとした。

日銀は17日の金融政策決定会合で、足元の物価見通しを下方修正した。物価上昇率が前年比マイナスに転じる可能性も認めたが、企業や家計の物価観に影響はなく、原油安の影響がはく落することで、2015年度を中心とする時期に物価目標の2%に達するとの従来方針を維持した。

もっとも、多くのエコノミストは黒田東彦総裁が当初掲げた「2年程度で2%の物価上昇」という目標の実現は難しいと見ている。

篠原氏は、物価目標に関して諸外国でも「中長期の目標」として設定されていることを強調。達成時期に固執して追加緩和に追い込まれる事態を回避するためにも、市場とのコミュニケーションを図りながら、時間軸を修正するよう期待したとみられる。

<円安は若干のプラス、主体によって異なる影響に注意必要>

ドル高/円安傾向で推移する為替相場に関しては、「マクロ的には円安は若干のプラス」としたうえで、輸出企業にはプラスでも消費者にとっては輸入物価上昇で景気回復が実感できないマイナス面があるとし、「主体によって異なる影響に注意が必要だ」と述べた。

<米利上げは秋以降、市場への影響「ボラ拡大と新興国市場」が懸念>

年央の米利上げ観測が強まる一方、日本では追加緩和観測も払しょくされていない。篠原氏は、米国の金融引き締めによってドル高に振れた場合、「懸念は日本(円)ではなく、市場でボラティリティーが高まり、新興国の資金の流れに影響が及ぶこと」と指摘。

米利上げ時期については「間違いなく秋以降だと思う」と見通した。米労働市場が思ったほど良くないとし、利上げベースは「時間をかけてゆっくり」になると見通した。

<「通貨戦争」否定、米当局者から円安懸念「あまり聞かない」>

米国の通貨政策に関連し、米議会では自動車業界などの声を反映して円安懸念の声が表面化することはあるが、「昔のような通貨戦争にはならない」と強調した。

米当局者から円安懸念の声は「あまり聞かない」とも語り、最近の円安傾向は「(日米の)金融政策のポジションの違いの結果で大きな問題にはならない」と語った。

インタビューは18日に行った。

*内容を追加します。

(吉川裕子 梶本哲史 木原麗花 編集:田巻一彦)

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