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高まる新興国リスク、「バーナンキ・ショック」再来に警戒感

2015年03月12日(木)19時28分

 3月12日、米国の早期利上げを見込んだ資金引き揚げの動きから、新興国では通貨安と株安が進行、新興国リスクが再び高まってきた。リオデジャネイロで先月撮影(2015年 ロイター/Ricardo Moraes)

[東京 12日 ロイター] - 新興国リスクが再び高まってきている。米国の早期利上げを警戒し、一部の経常赤字国などから資金を引き揚げる動きが強まっているためだ。ドル高進行の下で、新興国の通貨安と株安が進行。ブラジルなど経済規模の大きな国が危機に陥いれば、「バーナンキ・ショック」の再来があるのではないかとの警戒感も出ている。

<ドル高の裏側>

ドル高の一方で新興国通貨が軟調だ。2月末と比べトルコリラは4.0%、南アフリカランドは6.1%下落。インドネシアルピアは4.1%下落し17年ぶり安値を付けた。ブラジルレアルは10.4%と2桁の落ち込みとなっている。

新興国通貨は年初から弱かったが、拍車をかけたのが2月米雇用統計。予想外に強かったことで、早期の米利上げ観測が一段と強まった。ドルインデックス<.DXY>が12日の市場で12年ぶりに100を超え、ドルが大きく買われた。他方、新興国通貨の下落基調が止まらない。

いわゆる「ドル投」によって、ドルを売って新興国通貨に転換し、新興国の株式などに投資していた投資家は、新興国通貨の下落となれば、同通貨を売って、目減り分をヘッジしておく必要性が高まる。こうした動きが強まれば、スパイラル的に通貨安を進行させるおそれもある。

通貨安と同時に株安も進み、MSCI新興国株指数<.MSCIEF>は2カ月ぶりの水準に低下。欧州で量的緩和策(QE)が始まり、米国の代わりに流動性供給を担ってくれるとの期待はあるものの、基軸通貨国の金融政策の大転換を前にして「足の速い投資家は、資金シフトを始めているようだ」(外資系証券トレーダー)という。

<米国だけが好調な世界経済>

2013年5月22日、当時のバーナンキFRB議長は議会証言で「状況改善の継続を確認し、持続可能と確信できれば、今後数回の会合で資産買い入れを縮小することは可能だ」と発言。流動性縮小懸念から、新興国の通貨と株式から資金が流出した。MSCI新興国株指数は、1カ月間あまりで約16%下落した。

いわゆる「バーナンキ・ショック」だ。その後、米国の量的緩和策は昨年でつつがなく終了、米利上げに向け、タカ派的な材料が出るたびに、市場では何度も「シミュレーション」を行ってきたため、「恐怖感」は薄れている。

さらに「米利上げは米国経済の好調さの裏返しであることから、新興国もグローバル需要の拡大を享受できる。通貨安は輸出にはプラス要因」(JPモルガン・アセット・マネジメントのグローバル・マーケット・ストラテジスト、重見吉徳氏)との長期的な視点もある。

2004年6月に米国が利上げした際は、やや長いスパンだが1─2年かけて他国にも景気拡大が波及し、他の新興国も利上げに踏み切っていった。

だが、今回はインフレに苦しむ国を除き、利上げは米国のみ。その他の国では金融緩和を競い合うように進めている。11日にはタイ、12日には韓国が利下げに踏み切った。ドル高だけではなく、新興国の金融緩和も通貨安の要因であり、米経済が回復したからといって、新興国経済が持ち直すとは期待しにくい。

<海外マネーの変調には依然警戒必要>

1997年のようなアジア通貨危機につながるとの見方は少ない。BNPパリバ証券・債券調査部EMKストラテジストの前島英彦氏は、新興国経済について、1)財政収支が改善、2)外貨準備高も潤沢、3)国内金融市場もバブル的ではない──と指摘。

さらに国際通貨基金(IMF)などの救済システムが整備されているほか、通貨スワップ協定など外部の「安全網」もあるとする。

ただ、市場では「ブラジルやロシアなど経済規模の大きい国の景気鈍化が著しく、警戒感が残る」(大和証券・投資戦略部シニアストラテジストの山田雪乃氏)との声もある。

ブラジルは数少ない、利上げを行っている国だ。4回連続で利上げを実施し、政策金利は12.75%と6年ぶり水準に上昇している。景気が過熱しているわけではなく、消費者物価が7%以上という高インフレへの対応だ。

「ブラジル政府は財政再建を目指しているが、汚職問題の広がりを機に議会との対立が続いており、ブラジル債がジャンク級に格下げされるとの見方も強まっている。ロシア・ルーブルと同様、ブラジル・レアルは利上げがあっても下げが止まらず、ブラジル危機が、現実味を帯びる展開も視野に入れるべきだ」とブラウン・ブラザーズ・ハリマン通貨ストラテジストの村田雅志氏は指摘。「バーナンキ・ショック」の再来への懸念も出てきていると話す。

13年5月の「バーナンキ・ショック」翌日の日経平均は1143円の急落。年初来高値1万5942円を付けていた株価は、6月13日の1万2415円まで1カ月足らずの間に約3500円下落した。

日経平均は12日の市場で、15年ぶりに1万9000円の大台に一時乗せたが、買いの中心は依然として海外勢だ。公的年金などの買い期待が支えているとはいえ、グローバルな緩和マネーに翻弄される展開には、警戒が必要だろう。

(伊賀大記 編集:田巻一彦)

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