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焦点:今春闘の賃上げで政府の目安は1%、企業側とはギャップ

2015年02月12日(木)18時14分

 2月12日、政府が景気回復の起点として重視する今年の春闘に関し、ベアや手当を含たベースで1%の賃上げ実現を目安としていることがわかった。写真は黒田日銀総裁(右)と榊原経団連会長、2014年12月撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)

[東京 12日 ロイター] - 政府が景気回復の起点として重視する今年の春闘に関し、ベアや手当を含たベースで1%の賃上げ実現を目安としていることがわかった。デフレ脱却に向け、物価上昇に耐えられる賃上げ幅として、1%は不可欠とのスタンスだ。

経団連も歩調を合わせ、企業に対し異例の働きかけをしている。だが、大企業でも円安・原油安による収益状況はまちまち。中小企業はさらに厳しく、各種調査でベアが1%に達するとの見方はほとんどない。

<政府の合格ライン、ベア・賞与・手当込みで1%増>

「連合の要求はベアで2%。経営者側は昨年の例からも、その半分の実現を意識せざるを得ないはず」──。今年の春闘に向けて、政府・日銀関係者は昨年にも増して強い関心を示している。

年が明けても消費はさえない動きが続いている。政府は、物価が原油安で落ち着いている間に、所得を底上げして消費を回復させ、アベノミクスの掲げる経済の好循環につなげたいと意気込む。

昨年の春闘では、連合がベア1%を求め、結果としておよそ0.4%と要求の約半分程度の伸び率が実現した。

ある政府関係者の1人は「今年については、ベアにボーナスと手当てを合わせたベースでも構わないので、1%台に乗ることがキーポイントだ」と述べた。

政府の経済見通しでは、2015年度の消費者物価(CPI)上昇率は1.4%。名目賃金がこれを上回らなければ、実質所得は14年度に続いてマイナスになってしまう。

仮に1%の賃上げが実現しても、15年はまだ、賃上げが物価上昇に追い付かないことになる。このため「実質所得が15年度でいっぺんにプラス化するのは無理かもしれないが、次の増税(17年4月)までの間に、徐々に上がっていく姿が描けることが大事だ」と別の政府関係者は指摘する。

甘利明・経済再生担当相は、12日の衆院本会議における経済演説で「賃上げの流れを今春も来春も継続させ、経済好循環の拡大をめざす」と述べて、産業界に対して持続的な賃上げを要請する姿勢を示した。

物価目標2%の旗を降ろしていない日銀にとっても、賃金の伸びに焦点を充てている。実質賃金がプラスとならないと消費が回復せず、かえって物価上昇の力を減殺しかねない。日銀の見通しでは、15年度の消費者物価(除く生鮮、コアCPI)は1.0%上昇、これに見合った名目賃金の伸びとして、最低でもベア1%が必要とみているもようだ。

<大企業は業種間格差、中小は厳しさ増す調査結果も>

大企業では、昨年より賃上げ率を引き上げる姿勢もうかがえる。ロイター1月企業調査では、今年の春闘で「昨年と同程度ないし上回る賃上げ率となる見通し」との回答が42%を占め、昨年2月の調査で、「賃上げする」との回答が20%だったことと比較すると、大きな姿勢の変化がみえる。

経団連も政府と歩調を合わせ、例年以上に賃上げの実行を企業に働きかけている。榊原定征会長は「昨年度の賃上げを上回るように持っていきたい」と前向きの姿勢を示している。

それが強くにじみ出ているのが、今年1月に経団連がとりまめた賃金交渉の基本方針に関する「経営労働生産委員会報告」だ。

その中で、榊原会長は「このままでは再びデフレ経済に戻りかねないことを危惧している」と危機感を表し、「経済界として一歩前に出た対応を図らなかければならない」と訴えている。

経営者側の基本スタンスとして、収益が拡大している企業に対し「賃金の引き上げを前向きに検討することが強く期待されている」と異例の表現も採用した。

経団連事務局では、これほどの強い要請は過去の例がなく、会長のいう「一歩」どころか「百歩」踏み込んだ対応をとったとしている。

ただ、民間調査機関からは、1%のベアの実現は難しいとの見方が多い。労務行政研究所が労使・専門家の504人を対象に、昨年12月から今年1月にかけ、今春闘の見通しを調査したところ、賃上げ率全体が2.18%、ベアで0.4%程度と、昨年並みの見通しとなった。

経団連自身も「今年は、業種により収益状況がまちまちとなっている」(経団連事務局)と認識しており、必ずしも昨年のように一律に賃上げの財源が確保できる状況にはないとの見方を示している。

日本総研の山田久・調査部長は「今年1%のベアが実現できればいいが、企業にとってはやや難しいだろう。昨年の賃上げ異率2.2%をやや上がる程度ではないか」との見方を示している。

中小企業に関しては、政府も大企業以上に懸念材料としてみている。アベノミクスが広く日本国内の隅々にまで浸透させていくことが、安倍首相の今年の課題。政府関係者の1人は「中小企業も、昨年よりベアを引き上げていただきたい」と述べている。

しかし、日本商工会議所によると、これまでの円安に伴うコスト上昇を価格転嫁できていない中小企業が多く、収益環境は昨年と比べて決して良いとはいえない。

同会議所の調査では、15年度所定内賃金を引き上げる予定の企業は、今のところ33.5%にとどまり、昨年同時期の40%程度から減少している。

経営環境としては昨年より見劣りする中で、ベアや手当て・ボーナスを含めて「1%引き上げ」に近づけるか、政府の掲げる「好循環」にとっても日銀の掲げる「物価目標」にとっても、今年の春闘が正念場となる。

(中川泉 編集:田巻一彦)

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