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トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
北朝鮮危機で日米が再接近?
Issei Kato-Reuters
北朝鮮が韓国・延坪島を砲撃し、韓国軍兵士2人と民間人2人が死亡したのは11月23日のこと。北朝鮮がウラン濃縮施設の建設を公表した直後に発生した今回の軍事衝突は、日米両国が普天間問題から離れて、安全保障体制を強化するチャンスになるかもしれない。実際、尖閣諸島沖の漁船衝突事件で日中が対立して以来、すでに日米関係は少しづつ好転している。
東アジアの不安定化が、日米安保体制の強化に直接的につながる──過去にこのロジックが機能していたのはほぼ間違いない。1994年以来、度重なる北朝鮮の挑発行為に触発されて、日本の政治家は防衛力を強化し、弾道ミサイル防衛に代表される新たな日米同盟の形を探ってきた。
さらに、民主党政権の東アジア戦略が、多くの人々の予想以上に現実路線だという兆候もある。前原誠司外相は中国共産党機関紙・人民日報系列の国際問題専門紙のインタビューで「自分はタカ派ではなく、理想主義を尊ぶ現実主義者だ」と語ったが、この言葉は多くの民主党議員の信条を代弁していると思う。「タカ派」と「現実主義者」の区別には意味があり、その区別は民主党の外交・安全保障政策を理解するうえで大いに役立つ。
日本政治における「タカ派」の条件とは、ある特定の政策に賛同することだけではない。これは、政治的スタンス以上に文化的アイデンティティに関わる問題だ。安全保障政策における政治的、法的な制約を取り除きたいと願うだけでなく、戦後体制の価値観に疑問を呈し、第9条に留まらない大幅な憲法改正を支持し、「自虐史観」に反対し、保守を推進する世界観が必要なのだ。
彼らは自らの政策を正当化するために北朝鮮や中国の脅威をもち出すが、日本が大国だという信念にについては現実的な諸事情など無関係に信じている。
■普天間論争が問いかける国益の意味
一方、日本における「現実主義者」は諸外国のそれと似たような意味をもつ。彼らは国益を厳密に見極め、手持ちの手段を駆使して最大の国益を得る方法を明確に考える。
「現実主義」はしばしば軍事力の行使を連想させるが、必ずしもそうではないと思う。エリック・ヘジンボサムとリチャード・サミュエルズが98年にインターナショナル・セキュリティー誌で論じたように、戦後日本の指導層は経済成長を優先するという広い意味での国益を重視した「重商主義的な現実主義者」だった。
民主党の外交・安全保障政策も、一般的に認識されているよりはるかに現実的だ。かつての自民党政権と同じく、中国とある種の建設的な関係を維持し、中国の台頭を懸念している他の周辺国とも関係を深める。海上自衛隊の保有する潜水艦を16隻から20隻以上に増やすことを10月に発表するなど、政府は防衛力強化への意欲をみせている。政権交代以来、検討を続けている「防衛計画の大綱」には、「武器輸出三原則」の緩和や九州・沖縄への自衛隊の重点配備など数々の提言が盛り込まれる予定だ。
日本は「再軍備」への道を進んでいるのだろうか? いや、そうではない。ただし、今の日本は受身の平和主義国家とも違う。
では、アメリカとの関係はどうだろう。普天間問題をめぐるアメリカとの論争は一見、国益よりも国内の政治力学に左右される民主党の現実路線の限界を露呈したようにみえる。
だが、基地を歓迎していない沖縄県民に基地を押し付けることが本当に、日本あるいはアメリカの国益になるのだろうか。問題は、基地問題について民主党が冷静な判断ができないことではなく、沖縄に基地を置くことがなぜ日本の国益になるのか明確でない点にある。この疑問は、どのような日米同盟が最も両国の国益に適うのかという大きな問題にもつながる。
両国の頭上にはこの疑問が垂れ込めている。来年春に行われる予定の日米首脳会談の準備が始まると、両国はようやくこの問題に目を向けはじめるのかもしれない。
■「強固だが限定的」な安保協力へ
北朝鮮の挑発、あるいは中国海軍の暴発によって日米関係は新たな方向へ向かうのだろうか。いや、東アジアの不安定化は、広範かつ壮大な協力体制よりもむしろ、日本国内や周辺地域での抑止力にフォーカスした「強固だが限定的」な安保協力体制への流れを後押しすると思う。
しかも、沖縄県民の基地反対の世論と先行き不透明なアメリカ経済を考えれば、日米両国は政治的、財政的に継続可能な抑止力を模索すべきでもある。
東アジア情勢の展開次第では日米が同盟の未来について緊急に話し合う必要性が生じるかもしれない。だが何が起きようとも、日米同盟が今とまったく違う方向に急旋回する可能性は低そうだ。
[日本時間2010年11月24日02時54分更新]
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