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コラム
トバイアス・ハリス オブザーヴィング日本政治
菅の謝罪は日本の国益だ
8月10日、菅直人首相は韓国併合100年に関する談話を発表した。「歴史に対して誠実に向き合いたいと思います。歴史の事実を直視する勇気とそれを受け止める謙虚さを持ち、自らの過ちを省みることに率直でありたいと思います」
菅は、日本の「植民地支配」が韓国に与えた苦しみを認めて謝罪。さらに、朝鮮半島由来の文化財を返還することも約束した。
日本の指導者はたびたび過去の行為について謝罪しており、その膨大なリストにまた新たな項目が付け加えられたという皮肉な見方は、当然ある。そもそも、これ以上謝罪を繰り返したところで、日韓関係や日本のアジアでの立場の改善に役立つとも思えない。
一方、政治家の「自虐的」な言動を批判してきた日本の保守派は、この談話に猛烈に反発している。産経新聞は翌11日の社説で、菅首相の「一方的な歴史認識」を厳しく批判した。
■右派の歴史認識は矛盾だらけ
もっとも、右派の歴史修正主義者が反発している相手は韓国というよりも、日本の国内政治だ。彼らの反応は非常にナルシスト的だ。日本の帝国主義によって傷ついた人々に謝罪することで、日本は何を失うというのか。
菅も指摘したように、真実を包み隠さずに語り、自身の失敗を率直に認めることは弱さの表れではない。確かに日本の指導者は近隣諸国への謝罪を繰り返しているが、保守派が村山談話をはじめとする謝罪の正当性に疑問を呈するからこそ、歴代首相が新たな謝罪をする羽目に追い込まれるのだ。
歴史修正主義者に言わせれば、国家のプライドを保つには「適切」で「真実に基づいた」歴史認識が不可欠なのに、左派の学者やメディア、小心者の政治家が足を引っ張っているという。だが、都合のいい事実だけを選び出した彼らの歴史認識は矛盾だらけ。被害を受けた国々の言い分を軽視し、日本は欧米諸国の帝国支配の終焉を加速させた善意の支配者だったという虫のいい主張をするのは、あまりに日和見主義的だ。
もちろん、自国の非道行為について都合のいい解釈を広めようとするのは、日本の修正主義者だけではない(原爆投下に関するアメリカがいい例だ)。それでも、彼らの主張が日韓・日中関係の改善において常に障害になっているのは間違いない。
■誠実な謝罪に潜む戦略的な思惑
菅が明確に語ったように、良好な日韓関係は今後もずっと不可欠だ。菅が誠実に謝罪したことは疑いようがないが、韓国の李明博(イ・ミョンバク)大統領も緊密な日韓関係構築に関心を寄せていることを考えれば、今回の謝罪には戦略的なメリットもある。昨年、政権交代を果たして以降、民主党はアジア各国との距離を着実に縮めており、菅の謝罪もその流れの一環だ。
だとすれば、謝罪をめぐる論争は、相反する2つの世界観の衝突だ。菅政権に言わせれば、日本の未来はアジアにあり、主要国との連携は不可欠だ。韓国に改めて謝罪することで日本の地位が強化され、韓国やアジア諸国との交流の障害を取り除けるのなら、謝罪の代償など微々たるものだ。
一方、修正主義者にとっては、国家の罪を明確に認めるのは「自虐主義」の表れであり、日本の指導者には中国を相手にアジアの覇権争いをする力がないことを示唆している。
菅の見解が戦略的だとすれば、修正主義者の主張は絶対主義的だ。万が一、権力の座にある人間がそうした考え方に染まったら、日本はアジアで孤立し、自滅するだろう。
■菅と李が果たすべき任務とは
実際には、日本政治が修正主義的な考え方を採用するリスクは極めて低い。近年の日本の首相の中で最も修正主義者に近い保守派の安倍晋三でさえ、強力な日韓・日中関係の価値を認識しており、歴史問題では譲歩も辞さなかった。2007年に安倍が首相を辞任して以降、修正主義者は日本政界の周辺に追いやられ、民主党政権下での影響力はないに等しい。
菅の謝罪を受け入れるかどうかは韓国次第だが、そこには国家間の謝罪について回る問題がある。どれほど誠実に謝罪しても(そして、どれほど誠実に謝罪を受け入れても)、自分の後継者に同じ姿勢を強要するのは難しいという問題だ。
それでも、日韓関係を一段と強化することで、菅と李は一つの任務を果たすことができるだろう。歴史問題を政治的に利用しようとする両国の政治家の影響力を最小限に抑えるという重要な任務だ。
[日本時間2010年8月13日01時47分更新]
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