コラム

追い詰められた民主党が苦しむ「バイデン降ろし」のジレンマ

2024年07月20日(土)21時08分

「老いぼれバイデン」対「ヒーロー・トランプ」の戦いに

バイデンは米政治史上で最も経験を積んだ、最も見識の高い、最大の実績を上げた大統領の1人に数えられる。本人が言うように、6月27日以降は「数々の主要なイベント」を難なくこなし、「大勢の人々に会い、聴衆を魅了」してもいた。

アメリカン大学のアラン・リクトマン教授は短期・長期の経済動向やカリスマ性など13の指標で大統領選の結果を予測し、過去10回のうち9回的中させている。その読みによれば、民主党はほかの候補者を立てたところで、バイデン以上に勝率を上げることは望み薄だという。

だがリクトマンの指標には人間の本性や、年齢とパワーを人々がどう見るかという視点が欠けている。

バイデンの撤退を求める声が上がるたびに、選挙戦の焦点がトランプの脅威からバイデンの惨状へと移り、バイデンの支持率がさらに下がる恐れがある。バイデンは撤退圧力に屈しまいと粘りに粘るだろう。王殺しは民主党の自殺になりかねず、暴君の勝利を招きかねない。「バイデン降ろし」への抵抗は、それを恐れるが故の慎重さにほかならない。

討論会と暗殺未遂事件が起きる前から、世論調査はバイデンに厳しい結果を突き付けていた。権威ある数種の調査で、トランプの支持率は49%、バイデンは43%と6ポイント差があった。討論会後の2週間で、バイデンの支持率はさらに2%下がった。前回の大統領選が行われた2020年の7月には、バイデンは平均して約9ポイント差でトランプをリードしていた。

再選を目指す現職の大統領としては、バイデンの支持率は1992年のジョージ・H・W・ブッシュ以来最も低い。なぜか? 「彼の歩き方を見れば分かる。よぼよぼじゃないか」と、私の息子は言う。息子の言葉は、この選挙に対する浮動層の見方を端的に表している。

そして7月13 日、激戦州のペンシルベニア州で行われた選挙集会で、20歳の若者が近くの建物の屋上からトランプの頭を狙って銃を撃った。銃弾はわずかにそれて耳に当たり、直後にトランプは顔に血を流しながらこぶしを突き上げ、「戦え! 戦え!」と叫んだ。この時の写真は今や象徴的なイメージになっている。

情報不足で誰に投票するか決めかねている有権者たち。選挙の行方は彼らの決断に懸かっているとも言えるが、討論会と暗殺未遂を経て、彼らの脳裏にはこの選挙の構図がくっきりと焼き付いただろう。それはよぼよぼの現職と凶行に屈しないヒーローとの戦いというものだ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

タイ、米関税で最大80億ドルの損失も=政府高官

ビジネス

午前の東京株式市場は小幅続伸、トランプ関税警戒し不

ワールド

ウィスコンシン州判事選、リベラル派が勝利 トランプ

ワールド

プーチン大統領と中国外相が会談、王氏「中ロ関係は拡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story