追い詰められた民主党が苦しむ「バイデン降ろし」のジレンマ
「老いぼれバイデン」対「ヒーロー・トランプ」の戦いに
バイデンは米政治史上で最も経験を積んだ、最も見識の高い、最大の実績を上げた大統領の1人に数えられる。本人が言うように、6月27日以降は「数々の主要なイベント」を難なくこなし、「大勢の人々に会い、聴衆を魅了」してもいた。
アメリカン大学のアラン・リクトマン教授は短期・長期の経済動向やカリスマ性など13の指標で大統領選の結果を予測し、過去10回のうち9回的中させている。その読みによれば、民主党はほかの候補者を立てたところで、バイデン以上に勝率を上げることは望み薄だという。
だがリクトマンの指標には人間の本性や、年齢とパワーを人々がどう見るかという視点が欠けている。
バイデンの撤退を求める声が上がるたびに、選挙戦の焦点がトランプの脅威からバイデンの惨状へと移り、バイデンの支持率がさらに下がる恐れがある。バイデンは撤退圧力に屈しまいと粘りに粘るだろう。王殺しは民主党の自殺になりかねず、暴君の勝利を招きかねない。「バイデン降ろし」への抵抗は、それを恐れるが故の慎重さにほかならない。
討論会と暗殺未遂事件が起きる前から、世論調査はバイデンに厳しい結果を突き付けていた。権威ある数種の調査で、トランプの支持率は49%、バイデンは43%と6ポイント差があった。討論会後の2週間で、バイデンの支持率はさらに2%下がった。前回の大統領選が行われた2020年の7月には、バイデンは平均して約9ポイント差でトランプをリードしていた。
再選を目指す現職の大統領としては、バイデンの支持率は1992年のジョージ・H・W・ブッシュ以来最も低い。なぜか? 「彼の歩き方を見れば分かる。よぼよぼじゃないか」と、私の息子は言う。息子の言葉は、この選挙に対する浮動層の見方を端的に表している。
そして7月13 日、激戦州のペンシルベニア州で行われた選挙集会で、20歳の若者が近くの建物の屋上からトランプの頭を狙って銃を撃った。銃弾はわずかにそれて耳に当たり、直後にトランプは顔に血を流しながらこぶしを突き上げ、「戦え! 戦え!」と叫んだ。この時の写真は今や象徴的なイメージになっている。
情報不足で誰に投票するか決めかねている有権者たち。選挙の行方は彼らの決断に懸かっているとも言えるが、討論会と暗殺未遂を経て、彼らの脳裏にはこの選挙の構図がくっきりと焼き付いただろう。それはよぼよぼの現職と凶行に屈しないヒーローとの戦いというものだ。
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