チャールズやヘンリーの醜聞どころじゃない、英王室を脅かす「最大の危険」
チャールズ新国王の下で王室はどう変わるのか JON SUPERーPOOLーREUTERS
<イギリスの君主制と英連邦そのものが存続の危機に直面している。王国の「神話」の力は今後もこの国を支え続けることができるか>
エリザベス2世の訃報に接したとき、なぜかMI6(英国情報部国外部門)の元責任者と交わした会話を思い出した。話題はイラン人の妄想について。「自分たちに起こる悪いことは全て英情報機関のせいだとイラン人は思い込んでいる」と私は言った。「ペルシャ湾では今もイギリスが全てを仕切っていると考えているんだ」
「そのとおり」と、彼は答えた。「だからジェームズ・ボンドが重要なんだ。『神話の力』さ。そのおかげで私たちは実際よりずっと大きな影響力を持てる」
イギリスの君主制、そしてエリザベス女王についても同じことが言える。王室は何の権力も持たず、女王は公的問題に一切意見を表明しないように努めてきたことで有名だ。しかし、女王の神秘性と国民からの支持は沈黙に比例して高まった。人々は自分の願望や主張を女王に投影し、自分の望むものを女王に見いだした。
現代の君主制支持派は、社会に安定をもたらす要として、党派性と無関係な国民統合の象徴として英王室をたたえ、その存在を擁護する。伝統と文化の継続性を重視する典型的な保守派の言い分だ。近代的革新主義が伝統的な慣習や規範に取って代わるべきだとするリベラル派の考え方よりも本質的に安全で賢明だと、彼らは言う。現在でも、新国王チャールズ3世の下で君主制を維持することに賛成の国民は62%に上る。
だが王室の維持コスト削減を含め、英君主制に「進化」が必要なことは支持者も認めている。背景には、君主制は過去500年間の社会の流れと根本的に矛盾するという暗黙の了解がある。エリート主義、生まれの実力に対する優位、民主主義の欠如......君主制の本質は現代社会を否定する。
女王の死とともに国家が崩壊する危機
今ではイギリス自体が女王の死と共に崩壊する可能性すらある。ブレグジット(英EU離脱)は、スコットランドの将来の独立への強力な追い風になった。北アイルランドも武力による占領から350年を経て、アイルランド共和国に合流するかもしれない。バルバドスやジャマイカなど旧植民地は「英連邦」から脱退し、英国王を元首に戴(いただ)くことを拒否しかねない。
それでも、イギリスには神話の力がある。国民に統一的アイデンティティーを与え、社会を一つにする共通の物語が存在する。
英君主制への異論が多いのは、それが提供する表面上統一された国家の物語を越えて、社会が発展してきたためでもある。王室の存在が語るイギリスの物語と、21世紀の自己意識や国民意識との断絶に比べれば、チャールズのスキャンダルは二の次だ。
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