コラム

チャールズやヘンリーの醜聞どころじゃない、英王室を脅かす「最大の危険」

2022年09月27日(火)20時06分
チャールズ新国王

チャールズ新国王の下で王室はどう変わるのか JON SUPERーPOOLーREUTERS

<イギリスの君主制と英連邦そのものが存続の危機に直面している。王国の「神話」の力は今後もこの国を支え続けることができるか>

エリザベス2世の訃報に接したとき、なぜかMI6(英国情報部国外部門)の元責任者と交わした会話を思い出した。話題はイラン人の妄想について。「自分たちに起こる悪いことは全て英情報機関のせいだとイラン人は思い込んでいる」と私は言った。「ペルシャ湾では今もイギリスが全てを仕切っていると考えているんだ」

「そのとおり」と、彼は答えた。「だからジェームズ・ボンドが重要なんだ。『神話の力』さ。そのおかげで私たちは実際よりずっと大きな影響力を持てる」

イギリスの君主制、そしてエリザベス女王についても同じことが言える。王室は何の権力も持たず、女王は公的問題に一切意見を表明しないように努めてきたことで有名だ。しかし、女王の神秘性と国民からの支持は沈黙に比例して高まった。人々は自分の願望や主張を女王に投影し、自分の望むものを女王に見いだした。

現代の君主制支持派は、社会に安定をもたらす要として、党派性と無関係な国民統合の象徴として英王室をたたえ、その存在を擁護する。伝統と文化の継続性を重視する典型的な保守派の言い分だ。近代的革新主義が伝統的な慣習や規範に取って代わるべきだとするリベラル派の考え方よりも本質的に安全で賢明だと、彼らは言う。現在でも、新国王チャールズ3世の下で君主制を維持することに賛成の国民は62%に上る。

だが王室の維持コスト削減を含め、英君主制に「進化」が必要なことは支持者も認めている。背景には、君主制は過去500年間の社会の流れと根本的に矛盾するという暗黙の了解がある。エリート主義、生まれの実力に対する優位、民主主義の欠如......君主制の本質は現代社会を否定する。

女王の死とともに国家が崩壊する危機

今ではイギリス自体が女王の死と共に崩壊する可能性すらある。ブレグジット(英EU離脱)は、スコットランドの将来の独立への強力な追い風になった。北アイルランドも武力による占領から350年を経て、アイルランド共和国に合流するかもしれない。バルバドスやジャマイカなど旧植民地は「英連邦」から脱退し、英国王を元首に戴(いただ)くことを拒否しかねない。

それでも、イギリスには神話の力がある。国民に統一的アイデンティティーを与え、社会を一つにする共通の物語が存在する。

英君主制への異論が多いのは、それが提供する表面上統一された国家の物語を越えて、社会が発展してきたためでもある。王室の存在が語るイギリスの物語と、21世紀の自己意識や国民意識との断絶に比べれば、チャールズのスキャンダルは二の次だ。

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イランの方向に「大きな部隊」向かうとトランプ氏、取

ワールド

米、「新ガザ」開発計画発表 高層住宅やデータセンタ

ワールド

習主席が年内訪米とトランプ氏、「常に素晴らしい関係

ビジネス

P&G、10─12月売上高は予想届かず 米政府閉鎖
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:「外国人問題」徹底研究
特集:「外国人問題」徹底研究
2026年1月27日号(1/20発売)

日本の「外国人問題」は事実か錯誤か? 7つの争点を国際比較で大激論

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 2
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレアアース規制で資金が流れ込む3社とは?
  • 3
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている「とてつもなく巨大な」生物...その正体は?
  • 4
    老化の9割は自分で防げる...糖質と結び付く老化物質…
  • 5
    韓国が「モンスター」ミサイルを実戦配備 北朝鮮の…
  • 6
    ラブロフ、グリーンランドは‌デンマーク​の「自然な…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    ノーベル賞に選ばれなかったからグリーンランドを奪…
  • 9
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の…
  • 10
    日本はすでに世界第4位の移民受け入れ国...実は開放…
  • 1
    上野公園「トイレ騒動」に見る、日本のトイレが「世界一危険」な理由
  • 2
    ピラミッドよりも昔なのに...湖底で見つかった古代の船が明かす、古代の人々の「超技術」
  • 3
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コングスベルグ社のNSMにも似ているが...
  • 4
    【銘柄】「古河機械金属」の株価が上昇中...中国のレ…
  • 5
    韓国『日本人無料』の光と影 ── 日韓首脳が「未来志向…
  • 6
    ニュージーランドの深海に棲む、300年以上生きている…
  • 7
    完全に「ホクロ」かと...医師も見逃した「皮膚がん」…
  • 8
    世界最大の埋蔵量でも「儲からない」? 米石油大手が…
  • 9
    中国のインフラ建設にインドが反発、ヒマラヤ奥地で…
  • 10
    【銘柄】「住友金属鉱山」の株価が急上昇...銅の高騰…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した─…
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story